私の心情(21)―地方都市移住ーWorcationの徳島神山町
徳島県神山町―Worcation
今回は地方“都市”移住とはちょっと違うかもしれません。まさしく“山の中の町への移住”です。でも、60歳を過ぎて移住するときに大切な何かが得られる気がして、敢えて紹介させていただきます。
皆さんは、徳島県名西郡神山町をご存知でしょうか。2005年の光ファイバー敷設ののち、グリーンバレーという活動グループが町おこしに注力し、2010年以降IT関係の新興企業がこの街にサテライトオフィスを構えるようになりました。最近では、休暇を取りながら空き時間で仕事をするWorcationの町としても全国的に有名になりました。
岐阜の実家と同じ山の中
徳島駅からバスで60分ほど山奥に向かったところに神山温泉があります。昼間の時間帯は1時間に1本のバス。乗っていたのは私を含めて6人だけで、しかも高齢者ばかり(自分も含めて)。さらに神山温泉バス停で降りたのは私だけ。なんか大変なところに来たのではないかと思わざるを得ませんでした。でもどこかほっとする町。周りは山、山、山と、岐阜の私の実家によく似たところだったからでしょうか。もともと2万人くらいの人口だったところが今や5000人を切るところまで減少。65歳以上の人口比率である高齢化率は52%とのことでした。泊った素敵な温泉ホテルは全20室が満室。温泉施設には地元の方も入浴だけに来る人もいて駐車場には車がいっぱい。非常に人が集まる”場所“になっていたのです。単に、公共交通機関のバスを使う私の旅が異質なのかもしれないというだけのことです。
世代を超えて集まるコモンハウス
翌朝、一般社団法人「神山つなぐ公社」の田中さんが、迎えに来てくださって親切に街の中を案内してくださいました。新興IT企業がほんとにおしゃれなサテライトオフィスを建てていたり、空き家になった民家を使って若い人たちが新しい事業を展開しているなど、興味深い動きがあるように思います。
また、そうした若い人たちが移住できるようにと現在建設中の集合住宅も見ることができました。地元で大埜地(おおのち)と呼ばれる地区にある20棟の集合住宅の計画です(写真)。家賃は月4.5万円。入居には年齢制限があり(若い人を優先する年齢制限)、子どもが高校生まで入居ができるとのこと。サテライトオフィスで働く若い人たちの生活場所を確保しようというプロジェクトなのです。1年半前から建設を始めて、今10世帯が入居、今年と来年で残りを建てる計画のほか、住んでいる人も周りの人もみんなが集まれる、コモンハウスと呼ぶ施設も建設中でした。近くには小学校、中学校、高校があり、その子供たちが世代を超えて集まれる場所を作りたいという願いを込めたプロジェクトとのことです。
この集合住宅の設計に携わっている30代の女性設計士のYさんは、2年半前に神山町に移住してきました。「設計の仕事をしていると現場に住むことは普通のこと」とおっしゃりながらも、「先日、町の皆さんの集まりで古文書を読む会に参加したんですよ」と、この町に移ってきたことを楽しんでいる感じが伝わってきました。もちろん、週末には車で30分の徳島市内に買い物に行くことも楽しそうに話していらっしゃいましたが。
次回はこの町に定年をきっかけに移住してきたNさんのお話を紹介します。