私の心情(274)―資産活用アドバイス122 60代6000人の声―60代の満足度と70代以降に向けた苦悩

2025年も恒例の「60代6000人の声」アンケートを1月28日-2月3日で実施しました。その結果を複数回に分けてコラムにまとめていきます。今回は一次分析の結果として、回答者6461人の属性のほか、満足度を中心に紹介します。ポイントは、60代の満足度の状況と70代以降に向けた苦悩です。一次分析の2回目は、資産運用と取り崩しを予定しています。さらに深掘りの分析は、第3回目以降に続けていきたいと思います。なお、今回のアンケートでは「持ち家か賃貸か」の設問を入れており、満足度とのクロス分析など、新しい発見があればと期待しています。

なお、ブログのなかでは一部のグラフを載せているだけですが、全体の一次分析グラフはフィンウェル研究所の「レポート一覧」に収載されていますので、こちらからご確認ください。

60代都市生活者の声を集める

「60代6000人の声」アンケートは、人口30万人以上の都道府県庁所在都市に住む60代だけを6000人以上の規模で集めているお金と移住に関する調査です。退職後の生活では都市生活者とそれ以外の地域での生活者では、収入や支出に対する見方、生活の満足度の基準などに大きな違いがあると考えています。そのため両者を一緒にした「日本の平均値」では大切なメッセージを見逃す可能性もあります。そこで、このアンケートは継続して、都市生活者だけを対象としています。

22年から4年連続(移住だけの調査は19年から6回目)で行っていますが、毎回少しずつ特別テーマを設けています。23年は金融リテラシーと金融詐欺被害の課題、老後2000万円問題の影響、24年は新NISAの利用状況、金融資産の取り崩しなどを尋ねました。25年は改めて60代の満足度を分析するために、住宅の取得状況を含めています。持ち家が満足度にどれくらい影響を持っているのかなど、今後分析を深めていきたいと思っています。

60代の平均的姿

今回調査の回答者をイメージしていただくために平均像を紹介します。家族構成は7割に配偶者がおり、3割が子どもと同居し、1割が親と同居しています。多くが夫婦二人の生活パターンですが、その家族構成はかなり多様になっています。23年のデータの分析では、配偶者がいることは生活の満足度を高めていることがわかっています。今年のデータでもそうした分析ができればと思っています。

勤労収入中心から年金収入中心への移行は65歳が節目になっており、これが60代の前半と後半で生活観などに影響をもたらしている可能性があります。

支出を上回る年収

年収、年間生活費そして資産水準には大きなばらつきがあります。まず年収と年間生活費の分布ですが、グラフの通り、どちらも201-400万円に集中していますが、その集中度は生活費が4割以上となっているに対して、収入では27%程度です。すなわち生活費は201-400万円層に集中しているものの、年収は401万円を上回る層も多くいるというわけです。その結果、年収の平均値は532.4万円と、年間生活費の347.0万円を100万円近く上回っています。総じて、60代都市生活者は、年収で年間生活費をカバーできるといえそうです。

一方、資産の分布は二極化しています。500万円以下の層(保有資産無しを含む)が45%強と最も多い層で、2001-5000万円の層もそれに次ぐ頻度となっています。後者の層は、退職金などのまとまった資金が支払われた人たちだと考えられます。

公的年金依存で「少ない資産でもなんとかなる」

ちなみに現有資産で退職後の生活はカバーできると思うかを尋ねた設問では、「十分できる」が17%、「何とかギリギリ足りると思う」が51%と、合わせて7割近い60代が「保有資産で退職後の生活は何とかなる」と考えていることがわかりました。

半数近くが500万円以下の資産にとどまっているなかで、こうした楽観的ともいえる見方をしているのは、前述の年収が生活費を上回る水準にある人が多いという事情が反映しているのかもしれません。

なお、退職後に最も頼りになる収入源として公的年金を上げた人は68%に達していて、生活の基盤が公的年金を中核とした年収にあることがわかります。

資産水準の満足度は低いが、生活全般では高めに

満足度の分析は、これまでと同様に生活全般の満足度、健康状態の満足度、仕事・やりがいの満足度、人間関係の満足度、資産水準の満足度の5つを聞いています。詳細な分析では、生活全般の満足度は残り4つの要素で決まると想定して進めていく予定です。

5つの満足度はそれぞれに、「満足できない=1点」から「満足できる5点」の5段階評価で聞いており、その平均点は、図表の通りになっています。過去の3回の調査と同様に、資産水準は「どちらかといえば満足できない(=2.76)」ものの、他の3つの満足度は3点を上回り、生活全般としては「どちらかといえば満足できる(=3.24)」水準となりました。

年齢別に5つの満足度をみると、常に一番低いのが資産水準の満足度で、常に一番高いのが人間関係の満足度です。

70代以降の生活の不安視は年齢とともに減少

70代以降の生活に関する考え方も聞いています。52.8%と過半数の60代が、70歳以降の生活が今より悪くなっていると懸念しています。その理由は健康面の満足度が低下するのではないか、資産面の満足度が低下するのではないかの2点が大きく影響しているとしています。

ただ、年齢が高くなるほど70代以降の不安感は逓減していきます(61歳が62.5%→69歳44.9%)。ある程度70代の生活が見えてくる年齢になると不安感が少し緩和されるのかもしれません。若い人ほど退職後の生活に不安を持っているという「見えない世界への不安を感じる」のと同じような状況ではないでしょうか。

80歳よりも70代を優先する姿勢

それは将来の資産の使い道の按分の仕方にも表れています。保有する資産の使い道として79歳までの生活を優先するか、80歳以降の必要資金の確保を優先するかを5段階で聞いたところ、70代の生活を優先する人が多いことが分かりました。43.4%が「79歳までの生活を優先する」と回答し、「80歳以降の資産確保を優先する」と答えた21.8%の2倍の水準です。

ただこれを年齢別にみると、「80歳からの生活のために必要資産の確保を優先する」との回答比率は、60歳で12.7%ですが、69歳では17.1%にまで高まっています。ここでも70歳に近くなるほど80代の生活がみえてきて優先順位に変化が出ているのかもしれません。

移住に対する評価も変化なし

東京・大阪・名古屋に住んでいる60代で地方都市への移住を考えたことのある人は16%強、6人に1人の割合でした。

また実際に移住された方のうち4分の3が「移住して良かった」と答え、その44.8%が「生活費の削減が可能になった」ことを、その理由として挙げています。また移住して「想定したほど良くなかった」と答えた方のうち最も多くの方(52.1%)が上げた理由が「思ったほど生活コストが下がらなかった」でした。移住評価のポイントとして、生活コストの削減は重要な要素になっていることがわかります。

 移住先上位候補は、札幌、大分、仙台、神戸、高松、福岡

最後に、アンケート対象となった人口30万人以上の34都市ごとに、回答者の生活全般の満足度と、「退職後に住む街として推奨するか」の推奨度を集計して、平均値を算出しました。下の図のように、横軸に生活全般の満足度、縦軸に推奨度をとって散布図を作ってみると、他人に推奨する度合いが高く、かつ住んでいる人の生活満足度が高い都市が右上の象限に表示されます。今年は、札幌、福岡、神戸、仙台と大都市が多く、これに大分、高松が続きました。昨年との比較でみると、札幌と仙台がリストに加わり、松山、富山、奈良、静岡がリストから落ちています。