私の心情(245)―地方都市移住61―あなたならどこに移住する?

生活費削減が資産寿命の延伸させる

インタビュー記事も含めて地方都市移住のコラムも、この5年間で61本目になります。毎回、読んでいただける方もきっといらっしゃると思いますが、改めて地方“都市”移住による「生活水準を下げないで生活費のダウンサイジングを図る」効用を紹介します。

退職後の生活費は、勤労収入、年金収入、資産収入の3つをバランスよく組み合わせることで賄っていくことが大切だと考えています。ただ勤労収入は年齢とともに減少するもので、年金収入は一度受給を始めるとほぼそれで固定されてしまいます。ということは、ある年齢を超えると生活費の思わぬ変動は、資産収入でカバーせざるを得なくなるわけです。

すなわち資産寿命の延伸に生活費の削減が大きな影響力を持っているわけです。

4つの評価点でみる移住候補都市

2024年2月に実施した『60代6000人の声』アンケートは、実のところまだ十分に分析を尽くせていません。毎年のことではありますが、思いついたときに、またはご依頼をいただいたときに作業を行うことが多いものです。今回もアンケート実施から5か月経って改めて作業をしてみました。

「60代6000人の声」では、自分の住んでいる街に対する「評価する点」と「課題と思う点」を挙げていただいています。それを、3大都市、人口100万人以上都市、人口30万人以上都市の大きな分類で集計し、都市規模別の傾向を見るグラフを作成しています。

今回は、それを都市別に集計して、①住居費、②物価、③公的サービス、④医療体制の4つのテーマごとに、「評価する」と回答した人の比率と「課題と考える」と回答した人の比率を計算し、その差を算出しました。例えば「物価は安い」と評価する人と「思ったほど安くない」と課題視する人の比率の差を使って、都市ごとに、どちらが、どれくらい多いかを見ようというわけです。

4つの評価のデータは、評価する人の比率と課題視する人の比率をそれぞれ棒グラフで示し、その差を折れ線グラフにしています。特徴は、折れ線グラフに出てきます。

家賃・住居費:地方中核都市で安い

最初のグラフは家賃・住居費です。「家賃・住居費が安い」と評価する声に対して、「意外に高い」と課題視する声が大きくなっているのが、左3分の1に記載されている3大都市と人口100万人以上の11都市です。これらの都市では折れ線グラフがマイナスの領域にあります。当然ですが大都市ほど家賃・住居費が高いと考えている60代が多いということです。

これに対して、人口が100万人未満で30万人以上の残り3分の2は、総じて評価する声の方が多く、折れ線グラフはプラスの側に移ります。

家賃・住居費は生活コストに占める比率も高いことから、地方の中核都市への移住のメリットが大きいことがわかります。

ただ、千葉市、静岡市、高知市、長崎市、鹿児島市、那覇市は「意外に高い」とみる人の比率が高く、差し引きするとマイナスになっています。

物価:地方都市でも「思ったほど安くない」ところも

家賃・住居費と同様の傾向を見せているのが、物価に対する評価です。大都市ほど、「思ったほど安くない」との評価が出るのは当然ですが、宇都宮市、千葉市、金沢市、静岡市、高知市、鹿児島市、那覇市では、「思ったほど安くない」と見る人が多くなっています。

先日、那覇市に移住された方のインタビューをしましたが、その際、「最近のように天候不順が続くと、荷が届かず買いだめもあって、相対的に物価が高くなっている気がする」と指摘されていました。

公的サービス・医療体制:地方都市でも総じて評価が高い

一方、違った傾向を見せているのが、公的サービスと医療体制です。

市役所などの公的サービスと医療体制に対しては、どちらも大都市圏での評価は高く、地方都市ほど相対的に低くなっています。ただ、水準こそ大都市の方が高いのですが、地方都市でも差し引きの結果は、評価する方が高いことをみると、地方だからこうしたサービスが良くないとは断じられないように思います。

特に差し引きの数値(折れ線グラフ)が高くなっている都市を見ると、公的サービスではさいたま市、福岡市といった大都市のほか、千葉市、松山市、鹿児島市、那覇市、医療体制では札幌市、福岡市のほか、金沢市、岡山市、熊本市、那覇市といったところが上げられます。

質と量の両面でみることも重要

地方移住の際によく指摘されるのが、公共サービスや、医療サービスの量・質の問題で、「地方だと万一の時に良い医療が受けられない」といった懸念を挙げる方が多いものです。確かに先端医療等の技術は大都市に集中するかもしれませんが、過去のインタビューでは、例えば医療サービスの場合、そのクオリティは利便性や待ち時間なども含めた患者の総合的な負担の度合いという指摘もありました。

医療だけでなく、公共サービスに関しても質の十分に検討する必要があります。質を評価するデータはなかなかありませんが、ここに上げた「医療体制」と「公的サービス」に関する住民の評価という視点は質を示す一つの指標になるかもしれません。特に60代の評価であることが、高齢層の移住においては参考になると思います。

もちろんこれだけで、地方都市移住先を決めるわけにはいきません。「地方の医療は悪い」という先入観ではなく、数字を背景にした分析(人口10万人当たりの医者の数は西日本の都道府県庁所在都市の方が多い傾向にある)とか、60代の住民の評価といったものも検討に値すると思います。さらにやはり実地に行ってみることも大切です。