私の心情(242)―資産活用アドバイス101―即答しにくい3つの質問への回答

このところ明らかに地方でのセミナーのご依頼が増えています。コロナが5類になったこともありますが、資産活用に関する興味も少しずつ増えているからではないかと喜んでいます。そうしたなかでセミナーでのご質問のなかから、なかなか即答しにくい質問を3つ選んで回答してみたいと思います。

質問1:儲かった投信はいつ売ったらいいのか

質問2:資産運用から撤退して「使うだけの時代」になる時期を80歳と設定しているが、その時にリーマンショックのような波乱が起きたらどうするのか

質問3:どうやって自分に合ったアドバイザーをみつけるのか

米株上昇で売りたくなっている?

質問1はオンラインセミナーの事前質問で、ほぼ必ずと言っていいほど聞かれるものです。新NISAのスタートで、資産運用“熱”が盛り上がっていますし、米国株の上昇は何か熱病のようでもあります。だからこそ、個人の投資家の方はその資産をいつ、どうやって現金化すべきかが気になっているのでしょう。「日本株はいつまで上昇するのだろうか」、「米国株はそろそろ売る時期ではないだろうか」というタイミングを探っていらっしゃるように思われます。

買いと売りは一対の行為ではなく、

儲かれば売却すればいい。これは原則ですが、その売却は資産形成の目的や目標に合っているかどうかを考える必要があると思っています。例えば、目標が退職後の生活の原資を作り上げることだとすると、例えば30歳から投資を始めて5年で元手100万円が150万円になったので売却したとします。50万円の儲けが出たのですが、それでどうしますか?

それだけでは退職後の生活を豊かにすることはできませんから、それをまた投資に振り向けて・・・・というように繰り返すことになります。それなら何も150万円になったからといって現金化する必要はなかったはずです。

資産運用という一連の行動の始まりと終わり

シンプルに考えると、金融取引は「ある金融資産を買って売る」ことで、ひとつの行為が終了する、一対の行為です。しかし積立投資のように毎月、定額で投資信託を購入していき、退職したらそれを売却して生活費に充てると考えると、買うことと売ることが一対の行為とは言いにくいと思います。買うことと売ることが、資産運用という行為の「始まり」と「終わり」という見方の方がしっくりきます。

日本株はいつが売り時か、米国株はもうそろそろ売った方が良いのか、といったレベルはその取引を一対の行為としてみているにすぎません。そうではなく、目的をもって始めた資産運用であれば、それを売却するときはその目的を果たすときです。

その資産運用が退職後の生活資金を作ることであれば、それが達成できるときに資産活用として、部分売却を始めればいいのではないでしょうか。

リーマンショック懸念時期が80歳になっただけ?

質問2も、実はよく聞かれます。というのも65歳時点で「使いながら運用する時代」に入るということは、資産運用を65歳以降も継続することを意味し、「資産運用から完全に撤退する退職時点に向けて、リスク性資産比率をゼロにする」とするこれまでの考え方をきちんと否定しようとするものです。またそれは、退職時点でリーマンショックのような大きな波乱が起きても対応できるような解決策を示すものでもあります。

となると、「80歳で「使うだけの時代」に移行するときに一括売却をするなら、タイミングが65歳から80歳になっただけで、そこに金融市場の波乱があったら問題にあるのではないか」といのが質問の趣旨になります。

「使いながら運用する時代」そのものがリスク軽減策

ただ、65歳から80歳までの「使いながら運用する時代」の活動を考えていただくと、見方は少し変わるのではないでしょうか。この15年間は、有価証券を運用しながら取り崩していきますので、徐々にリスク性資産の比率は低下していくことになるはずです。そのため、65歳時点よりも80歳時点の方がかなり波乱に対する耐性は高まっているはずです。

有価証券を優先的に引き出していれば、80歳時点でもう有価証券比率はゼロになっている場合もあるでしょう。もちろん80歳までの「使いながら運用する時代」に運用がうまく行って、想定よりも引出額が少なければ80歳時点で想定以上に資産が残っている可能性もあります。それでも65歳時点から比べるとかなりリスク性資産の残高は減っているはずです。

資産の取り崩しそのものが、保有金融資産全体のリスクを低減させることにつながりますから、「使いながら運用する時代」そのものがリスク軽減策でもあるのです。

自分も悩んでいる「自分に合ったアドバイザーとは」

質問3にあるように自分に合ったアドバイザーを見つけることは簡単ではないかもしれません。質問されるたびに「自分はどうするかな」と自分事として思い悩むものです。そのため、ここでの回答は試行錯誤のプロセスだと思って読んでください。

アドバイザーという名称を持った販売員の方々は多いと思います。それはそれでいのですが、課題は2つあると思っています。1つは私の側に立ってアドバイスをしてくれるかどうかの「証」があるか、もうひとつは資産活用について理解しているか、です。後者については、そもそもの問題ですが、ここでは脇に置いておきます。

私の側に立ってくれるアドバイザーはいるのか

自分としては英国の制度などを知っているがゆえに、現在のところ日本においてはまだそれに匹敵するようなアドバイスの多様な提供体制は出来上がっていないと考えます。そのため「私の側に立ってくれるアドバイザー」を探すのはちょっと大変ですが、次のポイントを重視してはどうかと考えています。

まず、料金をアドバイスというサービスに対して設定しているかどうかを確認することが重要に思います。独立系アドバイザー(IFA)と称していても売買手数料で活動しているところもありますから、アドバイスが無料だというところはかえって心配になります。その背景にある販売手数料や代行報酬といった「商品に紐づくフィー」もちょっと避けたいです。

手数料バイアスは避けたい

フィーはあくまでもサービスに対するもので、商品に紐づくものだとフィーの高いものを提供するという「手数料バイアス」が存在する可能性もあるからです。もちろんアドバイス・フィーの設定方法は、時間給とか残高連動とかいろいろですから、自身の好き嫌いも加味して選んでいただくことになると思います。

ただ、残高連動のアドバイス・フィーを設定しているところでは、それ以外にわれわれが負担するフィーや手数料があるのかどうか必ず聞くべきだと思います。例えば、アドバイス・フィーの他に投資対象となる投資信託の代行報酬やそれ以外のフィーも受け取っているのであれば、それも含めて自分が負担するフィーになるからです。

サービスに紐づくフィーを指向するアドバイザーを選びたい

私は、投資信託の代行報酬は一律化すれば「手数料バイアス」はなくなると提言していますが、それまでの段階では、先進的なアドバイザーは、「代行報酬とアドバイス・フィーを合計して1%」にするといったアドバイザー独自の設定にすることも可能だと考えています。水準は1%が良いかどうかはわかりませんが、われわれが負担するフィーはすべて合算していくらにすると決める方法です。顧客の最善の利益となると考えてポートフォリオを作った結果が信託報酬の高い投資信託を組み入れることになっても、この方法であればアドバイザーの提案を信用できるのではないでしょうか。

もし、そうしたアドバイザーがみつからなくとも、アドバイザーと契約を結ぶときにこうした提案をしてみるのもいいかもしれません。たとえ希望する契約を結べないとしても、先方にはこちらの意図が伝わるだけでも大きいと思います。「このお客さんはしっかり見ている」とわかるだけでも良い関係を作れるのではないでしょうか。