私の心情(203)―お金との向き合い方65-日英の金融アドバイス・ギャップ

日英の実感の違い

9月7日に「私の心情201―英国金融アドバイス業界の動向」と題して、手数料制撤廃後の英国における金融アドバイス業界の顧客数増加と業績の急伸を紹介しました。ちょうどオンライン証券の国内株式手数料撤廃の報道があったところでの紹介だったこともあり、多くの方に読んでいただけたようでした。

今回はその続報です。実は、そのブログをリリースする直前に、ロンドンでRetirement Thought Leadershipの活動を続けている元同僚とメールで連絡をしました。

私 「英国の金融アドバイス業界の顧客は年平均40万人ほど増加し続けているけど、その背景にPension Wiseの影響は大きいんだろうか」

彼 「私の実感ではそんなに増えているとは思えない。それはどのデータなんだ?」

私 「えっ、違うのか!? これはFCAがリリースしているデータなんだが?(といって該当のURLを添付)」

数日して

彼 「野尻のデータは正しかった。確かに平均で40万人程度増加し続けている。ただ現場の実感は違う。このデータも併せて読んでくれ。(The Advice Gapのレポートを添付))

ということで届いたのが、The lang cat社がリリースしたThe Advice Gap 2023レポートでした。

Advice Gap

そのレポートの詳細をここで言及することはできませんが、1つだけ私と彼との認識のギャップの根っこにあるデータを紹介します。その数値は11%です。

英国は2013年から投信と保険にかかる組成会社からのキックバック手数料の全面廃止を行い、代わりにアドバイザーたちは顧客から直接、アドバイス料を受け取る形でサービスを提供する方式に変更しました(この変更は当局のレポートの頭文字をとってRDRと呼ばれています)。

これによって手数料の高い商品を販売しがちになる手数料バイアスはなくなりましたが、一方で「アドバイス料を支払ってまでアドバイスを受けたくないと考える人たちが多く生まれてしまう」という懸念でした。これをアドバイス・ギャップと呼んでいます。

金融アドバイスを受けている人は成人の11%に達する

さて11%ですが、これが2023年のアンケート調査で判明した「過去2年間にアドバイス料を支払って、アドバイスを受けた英国成人の比率」です。これは、逆の言い方をすれば、アドバイス・ギャップなどを理由に、アドバイスを受けていない人が89%いるという見方もできます。

ちなみに、この調査はサンプル調査のため、11%を英国の成人5172万人弱を基に計算すると、570万人が金融アドバイスを受けたとなります。さらに同レポートでは、その6割が継続的なアドバイスを受けているとしていますから、その数は360万人となります。これはFCAの統計(「私の心情201を参照」)で示された2022年末の継続的なアドバイスを受ける顧客数347万人弱と整合的です。

さて最初の私と彼との認識のギャップですが、彼は「依然として89%がアドバイスを受けられていない。アドバイス・ギャップはなかなか縮まらない」と考えているようです。そのため、「まだまだ環境は整っていない」という認識のようです。一方で私の方は日本の現状からみて、「成人の11%もの人がアドバイスを受けている」というのは高い数値と映りました。この認識のギャップはかなり大きいもののように感じます。

料金が高いからアドバイスを受けないという人は少数派

羨ましがっても仕方ありませんが、日本では金融アドバイスの拡大にどこから手を付ければいいのでしょうか。英国でアドバイスを受けていない人には4つのタイプがあるといわれています。

1つ目は「無料のアドバイスを求めているが、どこでそうしたアドバイスが受けられるかを知らない」人、

2つ目は「アドバイスに料金を支払うつもりでもその金額が高すぎてアドバイスを受けられない」人、

3つ目は「そもそも金融アドバイスの存在を知らない」人、

4つ目は「金融アドバイスの必要に迫られることがなかった(そうしたタイミングがなかった)」人

がその4つですが、規模感からすると1つ目が最大規模で、その次が3つ目、そして4つ目で、もっとも規模が小さいのが2つ目となっています。すなわち、料金が高いからアドバイスを受けないといった要素よりも、他にアドバイスへの一歩を踏み出す要素があるように感じます。

日本でも退職時点における無料の投資ガイダンスが必要に

英国では2015年にPension Wiseと呼ばれる制度を導入し、DC加入者が資金を引き出す際に政府が無償で投資ガイダンスを提供するという施策がスタートしています。無償の投資ガイダンスが提供されることで、1つ目、3つ目のギャップは本来カバーされる方向に向かうはずですが、どちらも増加傾向にあります。これは、コロナ禍とその後の物価上昇による生活コストの上昇が背景にあるようです。ただ、逆に生活コストの上昇から金融アドバイスの必要性を痛感する人が増えて、4つ目を理由としたアドバイス・ギャップは縮小しているとのことです。

差し当たり日本でも、無償の投資ガイダンスの実施が重要になるのではないでしょうか。