私の心情(190)―資産活用アドバイス73-身近にある収益率配列のリスク②

前回に続いて、身近にある「収益率配列のリスク」を紹介します。今回は、資産運用と住宅ローンの両建てに潜む「収益率配列のリスク」と、FPの皆さんのなかでは有名な資本回収係数という考え方と「収益率配列のリスク」です。

(1)住宅ローンと資産運用の両建てに見る「収益率配列のリスク」

60代5.5人に1人が住宅ローンを継続

前回紹介したFIREはあり得ないと考えている60代の人でも、身近に、しかも知らないうちに「収益率配列リスク」を抱えている人もいます。

最近は退職してもまだ住宅ローンを抱えている60代は多いと聞きます。三井住友トラスト・資産のミライ研究所が行っている「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」の2023年版によると、7506人の回答者の中で60代は1226人いて、そのうち住宅ローンを抱えている人は12.7%に上っているとのことです。もともと住宅ローンを組んでいない人(25.0%)もいますので、住宅ローンを組んだ人の5.5人に1人は60代になっても住宅ローンが残っているというわけです。

無理に返済しないで運用に回すべきか?

退職金で返済しきれなかったという人もいるでしょうが、これだけ金利が低いので無理に返済しないでその分、手元資金を厚くしておきたいと思う人もいるはずです。私も住宅ローンを無理に返済しようとせず、当初の計画通り、今でも返済し続けています。まだあと数年残っているところです。

無理して返済しないで手元資金を厚くするという場合には、その資金を運用することも可能になります。今の金利水準なら「運用で得た収益で住宅ローンの返済ができる」と考える人もいるでしょう。例えば、退職金のうち、返済に充てなかった1000万円を運用すると想定し、10年間の運用収益率の平均を年率3%と考え、初年度に30万円の運用収益を期待します。それを毎月の返済の一部に充当するという考え方です。

住宅ローン返済しないで運用するリスク

しかしここに「収益率配列のリスク」が潜んでいます。住宅ローンの返済は定額で、これを毎年変動する運用収益と元本1000万円の一部取り崩しで充当するわけですから、これは運用しながら定額取り崩しを行うことと同じです。住宅ローンと資産運用の両建てで考えることで、「返済が定額で運用は変動する」ことになり、期間中の前半に運用収益が厳しい環境が訪れたとき、想定以上に元本の毀損を進め、その結果、思ったほど両建てのメリットがなかったということにもなりかねません。

住宅ローンには住宅ローン控除といった税制上の優遇もありますから、そのメリットは大きいと思いますが、両建てによる安易なメリットだけではなく、「収益率配列のリスク」があることも忘れてはいません。

(2)資本回収係数では定額引き出しが前提に

FPの知る6つの係数のひとつ

先日ある雑誌で新NISAの特集が組まれていたので読んだのですが、その最後に取り崩しに関するコメントがあり、「資本回収係数」という言葉が登場していました。この係数は表になって、表側に年数、表頭に1年複利の金利が並び、その表のなかに係数が表示されています。

例えば1000万円の資産を年利3%で運用し、10年で引き出し終わるには、毎年いくら引き出すことができるかを、この係数で計算できると示されていました。実際の係数は0.11723ですから、毎年117万2300円ずつ引き出して10年で引き出し終わるということがわかります。

FPの方にはなじみの深い「6つの係数」のひとつとのことです。取り崩しを考えてきた私はFP資格を持っていないことで、こんなアイデアがあるとは知らずにいてちょっと恥じ入ったところでした。

ローン返済の計算式

ただ、この場合、「引き出しが定額で運用は変動」しますから、ここにも「収益率配列のリスク」が存在することになります。この点は、しっかりと理解をしておく必要のあることだと思います。

ところで、若干違和感を持ったのは「資本回収」という言葉でした。そこで、検索をしてみると、この係数のサンプルで出てくるの「借り入れの元利均等返済をする際の毎年の返済額」というものでした。これだと資本回収(業者目線の感じですが)の意味がよりクリアになりました。

新NISAの解説の流れで、取り崩しが出てきていたので当然運用のところは有価証券で運用するものと思い込んで読んでいましたが、ローンの返済ということであれば、金利は固定で考えることができますから、先の例を10年、3%返済とすれば、毎年117万2300円の返済をすることで、10年で1000万円の借り入れを完済できるとなります。ここには「収益率配列のリスク」は存在しません。

ローン返済と資産運用からの引き出しを混同しないことも大切ではないでしょうか。

身近な「収益率配列のリスク」を考えてみてください

先週と今週の2回にわたって、身近にある「収益率配列のリスク」の実例を紹介してきました。ちょっと名前が難しいので、あまり知られていませんが、「引き出しが定額で、変動する金融商品で運用」する場合には、ちょっと気を付けておく必要があります。ここで紹介した4つ以外にも何か気が付くサンプルがあれば、教えてください。