私の心情(156)―地方都市移住48-ちょっとまとめてみた、これまでの地方都市移住のポイント
このところ地方都市移住に関する取材が多くなっています。コロナ禍による若い人たちの移住が大きなテーマなのでしょうが、私に来る取材時には、「退職世代の移住こそ大きな意味を持つ」と力説しています。これまでの地方都市移住に関するポイントを簡単にまとめておきたいと思います。
生活費の節約は食費切り詰めではNG
合同会社フィンウェル研究所が、2022年2月初旬に実施した60代の生活の実情を聞く「60代6000人」アンケートの設問の柱のひとつが、資産寿命の延命策です。「保有している資産(金融資産と不動産)で自分の寿命をカバーできるか」と聞いたところ、17.9%が「十分できる」、51.9%が「なんとかギリギリ足りる」と回答しています。7割の60代が、程度の差はあるものの「寿命をカバーできる」というのはにわかには信じられないところです。
保有資産額の平均額は2695.8万円で、年間生活費の平均が368.7万円でしたから、単純に考えると7.3年分にしかなりません。もちろん勤労収入もあり、年金収入もあるでしょうが、それにしても心もとないと思いませんか。1つの可能性は、今後の生活コストの切り下げでしょうが、アンケートの回答では資産寿命延命策として挙げられたのは、「生活費を切り詰める」31.8%、「長く働く」28.9%、「資産運用」18.2%の順でした。しかも生活費の切り詰めの具体策は、3分の1が「食費を切り詰める」としています。これでは、退職後に生活レベルを維持するというのはちょっと難しいと思いませんか。
地方都市移住で生活費の削減を
そこで考えるべきは「退職したら地方都市に移住する」という包括的な生活費削減策です。人口30万人以上の各都道府県庁所在地でも、消費者物価が3‐5%低くなるし、家賃に至っては半分以下になります。もちろん、それだけの人口規模の都市ですから、「生活費は落としても、生活水準は落とさない」という対応が可能になります。
実際、多くの60代が地方都市移住を検討しています。アンケートでは東京、大阪、名古屋に住む2131人に地方都市への移住について聞いてみると、「現在移住を検討中」と回答した人は11.2%、「移住を検討したが諦めた」人は5.8%で、合わせると「検討したこと」のある人は17.0%となり、6人に1人が地方都市移住を検討している、または検討していたことがわかります。
また実際に移住した440人に、移住の評価を聞いてみると、75.9%が「良かった」と回答し、その理由として一番多く上げたのが「生活費の削減」(複数回答可で42.8%)でした。また「思ったほど良くなかった」と回答した人も、その理由として42.5%の人が「思ったほど生活費が下がらなかった」ことを挙げていますから、地方都市移住の評価の鍵は、生活費の削減にあるようです。「生活水準を落とさずに、生活費を落とすこと」が移住の成否を決めているというわけです。
生活水準を満足度、推奨度、人口密度から検討
そこで、ここからはどの都市が退職後の移住先として良いかを考えてみようと思います(こうしたランキングは、メディアの方々には必須のアイテムになっているようです)。私の場合は、公的データとアンケートの結果から、5つの数値を使ってランキングを作っています。
まずは「生活水準を落とさない」ための3つの指標です。アンケートの対象者は、人口30万人以上の都道府県庁所在地34都市に住む人達で、そのうち東京・大阪・名古屋を除く31都市の居住者ごとに、都市の評価軸となる2つのポイントを聞いています。1つは「推奨度」で、「退職後に生活する都市として自分の住んでいる都市を他の人に推奨するか」という設問です。「やめた方が良い」の0点から「是非移住するべきだ」の10点までの評価をしてもらい、それを都市ごとに集計して平均値を算出しています。もう一つは、「満足度」で、「生活全般の満足度」を、「満足している」の5点から「満足していない」の1点までの5点満点で評価し、こちらも都市ごとに集計しています。
図表1に推奨度と満足度をプロットしていますが、不思議なことに推奨度の高い都市は、満足度ではそれほど高くない(逆も同様)という傾向がみられます。満足度は資産水準や人間関係・健康水準などかなりパーソナルな部分がその決定要因になっており、推奨度の場合にはもう少し客観的に評価しているのかもしれません。
3つ目は、移住後の生活の質を評価する方法です。これは単純ではありませんし、一律に評価するのも難しいのですが、人口の集積度がひとつのカギを握るのではないかと考えています。例えば、人口密度が高いほど狭いエリアに商業施設や行政施設が集積していることになり、都市のコンパクトさを示す指数になるといった具合です。そうした都市なら車がなくても病院や市役所などに行きやすく、デパートや買い物、映画や劇場などの娯楽施設の利用も便利になるはずです。
消費者物価と家賃指数で生活費削減効果を確認
次は「生活費を落とす」という視点からの2つの数値です。地方都市移住の成否は生活費の削減にかかっているため、消費者物価と家賃の都市別比較は重要になります。総務省が発表する「小売物価統計調査(構造編)の年報」から、全国平均を基準とした10大費目別(家賃を除く)の都道府県庁所在地の消費者地域差指数を使って、東京23区との比較水準を算出したのが、図表2の消費者物価地域差指数です。さらに生活費の大きな部分を占める住居費も、民営家賃の水準を小売物価統計調査から東京23区と比較した家賃指数を作っています。
偏りなく上位となる総合力が評価される
図表2は、5つの数値それぞれにおいて上位10都市をレンジ1、次の10都市をレンジ2、最後の11都市をレンジ3とランク付けし、そのランクの総合評価を行った結果から、上位10都市だけを示しています。結果、自分の出身県の県庁所在地である岐阜市がトップになっていて、ちょっと気恥しいところですが、あくまで参考値としてみてください。この5つの条件の他にも「3大都市に近い都市だと商業施設などが大都市に吸収されてしまって生活水準が思った高くない」とか、「バスよりも路面電車などの公共交通機関の方が使い易い」といった個別に関心のある条件はいくつも追加できるのではないでしょうか。ただ、こうした整理をしてみると、地方都市移住の意味や自分に何が大切かが見てくるのではないかと思います。
自分にとって重要な点は何か?
もちろん実際に移住するとなれば1つしか選べません。最後に、改めて60代の視点で住んでいる都市の「良い点」を挙げてもらったデータをみてみましょう。特徴は、人口100万人以上の都市では、行政サービスや交通の便など「都市機能」を評価する点が強くなる一方で、30‐100万人都市では、生活費の低さの他に、おいしい食べ物、気候や風光明媚さといった「楽しさ」に評価ポイントが置かれていることです。移住先を考えるにあたっては、こうしたランキングに現れる数値の他に、自身の志向、満足度の源泉なども参考にすることが大切になります。