私の心情(150)―お金との向き合い方48-金融庁税制改正要望を読む
金融庁は8月31日に、NISAの拡充を中心に極めて意欲的な税制改正要望「令和5年度税制改正要望について」を提出しています。今回と次回の2回にわたって、その内容ついて私見をまとめてみます。
意欲的な資産所得倍増プラン関連要望
岸田内閣が発表した「資産所得倍増プラン」はその記述のなかに、NISA/iDeCoの拡充が謳われたこともあって、金融庁としてはNISAの拡充は追い風の中心となっているようです。実際、NISAに関しては、制度の恒久化と非課税期間の無期限化が盛り込まれ、年間の投資枠も拡大するという、制度が発足した2014年以来ずっと求められてきた内容がすべて盛り込まれたように思います。
しかも2024年に導入が予定されていた非常に複雑な2階建てNISA(あまりに難しくて徐々に新NISA導入に合わせてNISA資産を取り崩すそうと考えていました。私の心情54を参照ください)を白紙にしての新制度の導入ですから、ちょっと期待しています。
もちろん、これから税務当局との交渉などもあり、年末にかけて最終的に税制改正大綱に盛り込まれるには紆余曲折があると思いますが、何はともあれかなりの改善点が交渉のテーブルに乗ったといえるのではないでしょうか。
そのなかで公表資料だけではちょっとわかりにくいこと、明記はされていないが気になるところを列挙してみました。
制度の恒久化:
- これだけ多くの改正ポイントが並んでいますが、やはり最優先は制度の恒久化、非課税期間の無期限化、限度額の拡大の3つではないでしょうか。
非課税期間の無期限化:
- これまで非課税期間があったことで、「〇〇年枠」といった概念が強く意識されていました。そのため、「2019年枠の分が儲かっているから利益確定しておこう」といった発想に陥りやすくなっているのではないでしょうか。つみたてNISAでも2019年あたりから売りが出ているようです。とすれば非課税期間の無期限化は売却の抑制効果も期待できるのではないでしょうか。
年間投資枠を拡大し、弾力的な積立を可能に:
- 公表資料のP4にはこうした表現があり、あえて「弾力的な積立」が太字で表記されています。この弾力的というのは、ライフステージに合わせて積立投資額を増やせる時期もあることから、その時期の投資額にも耐えられる投資枠にすることにあります。
非課税限度額の拡大(簿価残高に限度額を設定):
- 簿価残高に限度額を設定するという意味は、生涯にわたる累計の拠出額に上限を決めるという意味です。英国の年金制度では、年間拠出上限額の他に、生涯拠出上限額というのもあって、この後者の制度と同じ意味になるでしょう。ちなみに、この制度の建付けは、もう数年前になりますが、非課税期間の恒久化を議論していた時に提唱したことがありました。
つみたてNISAを基本としつつ、一般NISAの機能を引き継ぐ「成長投資枠」を導入:
- 「成長投資枠」は新しいNISA(日経新聞では総合NISAと仮称しています)の内側で設定されると記載されています。限度額の拡大と合わせて考えると、2つのNISAの限度額の合計1400万円(=一般NISAの600万円とつみたてNISAの800万円)よりも大きな金額になることを要望していることになります。ただ、課題は、例えば2000万円まで広げたときに線引きがなければ、いわゆる一般NISAとしてすべて使えることになり、金持ち優遇との批判を浴びかねません。それでは制度自体の拡充が日の目をみない懸念もありますから、この点が今後の交渉のポイントになるかもしれません。
成長投資枠には一定の商品性を持った株式投信等が対象:
- 従来の一般NISAで投資が可能な投資信託のなかで一定の商品性を持ったものだけを認めることになりそうです。
スイッチング:
- NISA口座内で保有している投資信託を他の投資信託に切り替えることができるという点は、資料には明記されていません。しかし、金融庁への取材のなかでは「検討している」とのこと。スイッチングが前述の「拠出額が簿価残高で管理される」なかで認められると、「100万円で投資した投資信託が150万円に値上がりしたので売却して、他の投資信託を150万円で購入する」場合、簿価は100万円で管理します(=簿価残高を増やさない)。これは金融機関にはちょっと大変かもしれません。
資産形成促進に関する費用に係る法人税の税額控除:
- 企業が行う金融経済教育に関する費用の一定割合(例えば大企業では3%、中小企業では5%等)を法人税の税額控除の対象にするという設計です。従業員向けの金融経済教育が一段と盛り上がる起爆剤になればうれしいところです。
教育資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し:
- 贈与により取得した金銭等で証券会社等に有価証券の口座(教育資金口座)を開設した場合、そのうちの1500万円までの教育費充当額に対する贈与税が非課税になる制度があります。このなかで運用した際の損失は「教育資金以外の支出」として、契約終了時に相続税の課税対象になります。これを課税対象から外して欲しいという要望です。
金融所得課税の一体化:
- 現行の損益通算の対象範囲を拡大させるという要望です。現行では上場株式・公募株式投信、特定社債・公募公社債投信はインカムゲイン・キャピタルゲイン(またはロス)が損益通算の対象ですが、これをデリバティブ取引や預貯金等にも広げることで金融所得の課税を一本化しようというものです。
マイナポータルを利用した投資環境整備:
- このなかではNISAとiDeCoの口座開設一元化について興味深く見ています。両方がマイナポータルから口座開設できるようになれば、口座開設のハードルが下がることにつながるかもしれません。NISAの1800万口座はすべてマイナンバーに紐づいていますが、iDeCoはまだとのことで、この点の先行きが気になります。