私の心情(123)―地方都市移住37-株で大損だが、移住計画は達成(長崎)

24回の引っ越し、荷造りは慣れたもの

「荷造りは慣れたもんなんです」と話す長崎在住のMさんが、今回、地方都市移住に関するインタビューに答えてくださいました。

Mさんは69歳、奥様は66歳。サラリーマン生活はなかなか厳しいものだったと振り返ります。Mさんは38年間公務員として転勤を何度も繰り返されてきました。気仙沼、東京、大阪、尾道、広島、小倉、博多・・・・挙げていただくだけでその数に驚きですが、その引っ越し回数はなんと24回。1年で転勤したことも何度かあったとのことで、転勤族の典型のようなサラリーマン生活を送られてきました。

転勤の大変さは、同じサラリーマンならわかるところもありますが、ご家族の大変さは、それとは違った大きな負担になっていたはずです。Mさんは、「子どもたちは本当に大変だったようで、自分たちの結婚相手は絶対に転勤のないことを優先して決めた」と話されています。

今は家族に囲まれた良い暮らし

現在、長崎市の見晴らしの良い一戸建てに、ご夫婦で住んでいらっしゃいます。坂が多くて道が狭い長崎では、軽自動車が使い易いのが特徴です。Mさんのご自宅も、車が置いてある駐車場から100メートルくらい緩やかながら坂を上ります。

3人いらっしゃる娘さんは皆さん嫁がれて、近くにご自宅をお持ちになっています。コロナ禍の前は「2日1回くらい顔を出してくれていて、良い生活を送っていた」とのこと。今はその回数が減ったとはいえ、娘3家族が近くに住んでいらっしゃるのですから、いい生活パターンだといえます。

長崎に住むと決めるまでの葛藤

Mさんはご夫婦ともに長崎の出身で、その点からすればいわゆるUターン移住といえます。ただそれまでの経緯には、私たちにも共感できるところが多々あるように感じました。

実はMさんご本人は、以前は「やはり仕事は東京近辺でないと見つからない」と思い、最終的には東京近郊に住みたいと長く考えていらっしゃいました。公務員とは言え、いや公務員だからこそ、年齢を重ねるたびにポストが無くなり、外郭団体などに出ていく仲間が多くなるため、少しでも仕事に有利にしたいと考えていたと、心情を吐露されました。

しかし、ご長女が中学2年生の時、「将来なりたい職業が見つかり、そのために転校を続けるような生活はできない」と思い至り、それまでの葛藤を振り切って、生活拠点として長崎に家を購入することにしたそうです。それが40歳くらいの時、その前後から単身赴任に切り替えられました。

人生の目標は1億円を貯めることだった

現在の一戸建ては、それまでの貯蓄から頭金を出し、住宅ローンを組んで購入されました。ただ、住宅ローンは「本当に節約して10年くらいで繰り上げ返済」されたとのこと。そのため、退職金を住宅ローンの返済に回す必要はなく、住むところは確保できたことは評価されています。

しかし、退職後生活のための資産形成という点では必ずしも順風ではありません。もともと投資好きなこともあり、資産運用はかなり前向きで、「人生の目標は1億円を貯めることと考えていました」と話されます。投資信託などで「BRICsへの投資」を中心としていたこともあり、リーマンショックなどで大きく値下がりして、3000万円くらいの損失になったようです。住宅ローンを完済されたあとだったからよかったものの、それからは「節約のギアをもう一段入れなければならなくなった」と振り返ります。

公的年金だけではそれほど楽ではない

2013年3月に60歳で定年を迎え、その後は長崎に生活の拠点を移していらっしゃいます。69歳の今は公的年金が中心の生活になっています。受取金額は、夫婦で手取り21万円程度。とはいっても必要経費を差し引けば、生活費としては13、14万円くらいしかない。決して楽な生活ではないとおっしゃいます。

もちろん生活費は月々の分だけではありません。年に1度支払う固定資産税などの税金もありますし、10年に1度は外壁や屋根の塗装に200万円くらいかかるとのこと。太陽光発電を200万円かけて導入したり、15万円ほどのシロアリ対策も5年に1度は必要になります。それに冠婚葬祭もばかにならない。こうした経費は持っている預金資産の取り崩しで対応していらっしゃいます。

「単身赴任の時は、基礎的な経費が2倍になったことで厳しかった。単身赴任の男性が近所の居酒屋で食事をして帰宅するようなテレビのドラマとは全く違う、本当に節約に節約を重ねる生活だった」。そこから解放されたわけだから、お金のこともあるが「夫婦で一緒に住めるようになったことは本当に大切にしたい」としみじみとおっしゃいます。

それでも資産運用を継続、今の目標は6000万円

ところで公務員の退職金は多いものです。Mさんの場合は、退職金の半分を奥様が受取人となった死亡保険にして、後々の奥様の生活の支えにすることを優先されています。ご本人は「これまで迷惑をかけてきた罪滅ぼしだ」とおっしゃいますが、平均寿命の違いとMさんご夫婦の年齢差を考えれば奥様おひとりになられてからの生活費をどうするかは、保険を使うかどうかは別にして重要な課題だと思います。

そして残りは資産運用に回すことにされました。それまでは「投資信託で大きくやられたので」、今は個別株式中心に資産運用に切り替えられています。以前の大損もあって運用資産は少なくなった分、今は「目標は6000万円かな」とのこと。

森高千里が大好き

趣味は日曜大工とのこと。そのほかに映画・音楽が好きで、特にその編集を楽しんでいらっしゃいます。映画ならもう2000本ほどストックができているし、音楽は自分で編集したものはたくさん持っているとのこと。ご自身は森高千里の大ファンで「デビューの頃は最高だ」とおっしゃいます。奥様はイケメン系なので、誕生日には、イケメン系の音楽ビデオを編集してプレゼントされたとのこと。これは「なかなかハマっているな」と感じる話しぶりでした。もちろん、同じ趣味を有する仲間もいらっしゃって、特に自分で編集されたものは人気で、貸し出しもしていらっしゃるようでした。

取材を終えて

「今、充実した生活を送られているんだろうな」とつくづく思いながらお話を伺いました。株で大損したというお話は、60代の方には「あるある」です。私のように97年の金融危機が大きく影響した人間もいますし、Mさんのように2007-8年のリーマンショックが大きく影響した人もいらっしゃるはずです。特にリーマンショックでは、40代後半から50代だったわけで、運用していればそれなりに大きな金額だったでしょうから、その痛手も大きかったはずです。

それでも運用を続けているのは、しっかりとしたポリシーがあるのでしょうか。株が好きだという根っこがあるとはいえ、Mさんの場合には、それ以外にも明確な目標を設定していることも重要に思います。以前は「目標1億円」が、その後修正されて「目標6000万円」になっていましたが、具体的な目標があるのは大切なことだろうと改めて感じています。