私の心情(120)―地方都市移住35-60代6000人アンケート:地方都市移住には「夢」だけではなく「現実感」も

30万人以上の34都市を対象に都市ごとの推奨度を分析

「私の心情(116)」で指摘した通り、「60代6000人の声」からは、資産寿命延命策として「生活費を切り詰める」ことが中心となっていて、その柱は「食費」と考えている人が多いことがわかりました。しかし、これは言うほど簡単ではないように思います。そこで、筆者がいつも提言しているのが、生活費を削減するためのダウンサイジングが必要で、その1つの解決策が「地方都市移住」となります。

今回の60代6000人アンケートでは、実は3大都市、人口100万人以上、30‐100万人のそれぞれ都道府県庁所在地、34都市ごとに、都市の評価を聞いています。都市の評価は、3つの視点で行っています。

1)退職後に住むとして他人に推奨しますかという「都市の推奨度」を0点から10点までの評価で聞き、10点と9点をつけた人の比率から6点未満だった人の比率を引いてNPSスコア®に類似するスコアで評価する、

2)住んでいる都市の「良い点」、「課題」を列挙してもらう、

3)満足しているから満足していないまでの5段階評価で聞いた「生活全般の満足度」を点数化(1から5点)し、都市ごとに集計する、

の3つですが、これらの視点を分析することで、地方都市移住への考え方を整理できればいいと思っています。

住んでみたい都市と住んでいる人が勧める都市とはちょっと違っている

ということで質問です。皆さんは退職後にどこの都市に住んでみたいと思いますか?

先ほどの①の評価方法の「都市の推奨度」ランキングでみると、「第3位は金沢、第2位は鹿児島、そして栄えある第1位は・・・」と、ここで発表してしまっては面白くありませんね。そこで、まずは移住を考えている人が選んだ「移住候補都市」からご紹介します。

東京、大阪、名古屋の3大都市に住んでいて移住を検討している人は意外に多くいることがわかりました。アンケートに答えてくれた60代の3大都市居住者は2131人で、そのうち移住を検討していると回答した人は11.2%、検討したが諦めた人が5.8%で、合計すると17.0%、実に6人に1人が地方移住を検討している(いた)ことになります。特に60代前半が検討中で、後半になると諦めた人が多くなるのは、理解できます。

その人たちが選んだ移住先は第1位が那覇、第2位が横浜、第3位が京都、第4位が札幌でした。この4都市は順位が少し変わっていますが、2021年の調査でもトップ4でした。

そこで、この4つの都市は住んでいる人から見るとどうなんでしょう。「退職後に住むとしたら移住を勧めるか」を現在住んでいる60代の人に聞いた「都市の推奨度」では、那覇は9位、横浜は20位、京都は23位、札幌は12位でした。「住んでみたい」という憧れの都市と実際住んでいる人の評価にギャップがありそうです。

「都市の推奨度」が高いところは医療・公的サービス・交通など「都市機能」が高い

さて、それでは「都市の推奨度」トップの発表です。栄えある第1位は、福岡!

「都市の推奨度」でみると福岡はダントツの第1位で、特に住んでいる人に福岡の良い点を複数回答可で聞いてみると、全般的に、全体の平均値よりも高くなっていることが特徴として挙げられます。特に医療サービスの充実と交通の便が良い点を挙げる方が相対的に多かったのが特徴です。

第3位の金沢も同様に全般的に高く、加えて食べ物がおいしい点でもポイントが高くなっています。第2位の鹿児島はそれほど全体的に高いというわけではありませんが、市役所などの公的サービスが使いやすいことを挙げているのが特徴になります。また、私がよく言及している松山も第4位に入っていて、食べ物がおいしい点を指摘する人が多いのはうれしいところです。

「都市の推奨度」で上位に挙がってくるのは、医療体制、公的サービス、交通の便が良いといった「都市の機能」を挙げている人が多い点が共通の特徴といえそうです。

推奨度が高くても、満足度が高いわけではない

ところで、住んでいる人がその都市を退職後の移住先に勧めるということは、そこに住んでいる人の「生活全般の満足度」はきっと高いだろうと思っていました。しかし、分析してみると実はそう簡単ではなさそうです。図表の2をみていただきたいのですが、横軸に「生活全般の満足度」、縦軸に「都市の推奨度」を取って分布図を作ってみたのですが、ほとんど関連がないことがわかりました。そこで居住都市の推奨度を加えて生活全般の満足度との回帰分析を行ってみましたが、やはり係数は0.028とプラスではあるものの小さな値となっていました。

*変数として、4つの満足度の他に、都市の推奨度、就労状況、家族構成、生活費水準、資産運用状況を加えて重回帰分析を行った。

次回のコラムで、「都市の推奨度」と都市別の「生活全般の満足度」を比較してみます。