私の心情(111)―資産活用アドバイス42-英国のDC引出率、4%が一般的
米国のRMDを題材にした110回のコラムでは、余命を利用した引き出し率のアイデアを紹介しました。日本人にそのまま適用できるかどうかは別にして、米国税庁の税金を計算する際の引き出し率は、70歳で3.65%、75歳で4.37%、80歳で5.35%、85歳で6.76%、90歳で8.77%でした。年齢に合わせて引き出し率が上昇していますが、最低引き出し率ですから、実際にはもう少し高め(余命の計算は短め)でもいいかと思います。とはいえ70代前半では4%前後だということがわかります。
そこで次は英国の実情を紹介します。英国では、強制的に引き出させるというよりも、できるだけ年金受け取りに誘導しているように感じます。
英国確定拠出年金の引き出しに関する改定
2014年3月、英財務省は予算案資料のなかで、「政府の企業年金改革はこれまでAccumulation Phase(資産形成層)向けが中心でした・・・。政府は資産形成だけが必要な部分だと考えているわけではありません・・・・。国民は引き出しが必要になったとき、その資産からいかに必要な資産を引き出すことができるかを知りたいと望んでいる」と記載しています(Freedom and choice in pensions、詳細は弊著「脱老後難民 英国流資産形成アイデアに学ぶ」、日本経済新聞出版社、2017年9月、P165を参照して下さい)。
これをもとに、2015年、確定拠出年金の自由化「Pension Freedom」と呼ばれる政策が実施されました。英国の確定拠出年金の引き出しに関するルールは非常に複雑だったのですが、これで「引出可能年齢を55歳として、残高の25%は非課税で引き出せ、残りは引出時に所得課税(税率は0%、20%、40%、45%)」に簡素化されました。
さらに、確定拠出年金からの資金の引き出しでは、課税部分の繰り延べ商品(所得課税のタイミングをその商品の購入時ではなく、そこから資金を引き出す時期に繰り延べる)として、それまで唯一認められていたAnnuity(終身型年金保険商品)に加えて、新たに引出型の金融商品も対象とし、選択肢を広下ました。
確定拠出年金からの年間引出率は6%未満が7割を占める
FCA(金融行為規制機構)は、そうした制度変更のあと2015年から「Retirement Income Market Data」として、毎年引き出しに関するデータを集計・発表しています。興味深いデータが多数集積されていますが、ここではそのなかから引き出し率に関する部分を紹介します。
2020年度に引き出しを行った口座総数は37万6,592口座で、年間引出率が8%以上だったのは全体の43.0%に達しています。特に残高の小さい口座ではその比率が6‐7割ですから、小さい年金規模ではほぼ全額引き出しているのだろうと推測されます。一方、25万ポンド以上(1ポンド150円で換算すると3750万円以上、全体の19.9%を占める)の口座では、6%未満の引き出し率が7割を占めていることもわかります。資産が多いほど、低い率で引き出している比率が高いことがわかります。
60代後半から4.2%程度の引き出し率に
同じデータで、年齢別の引き出し率の分布もあります。全額引出としている可能性が高い引き出し率8%以上のところを除いて、8%未満の分布だけで平均引出率を計算してみました。結果は、55歳未満では引出率の平均値は3.46%ですが、年齢が上がるほど上昇する傾向にあります。ただ、65歳以上ではほぼ4.1%から4.2%あたりで横ばいになっています。
英国でも資産の引出率は4%前後というのが一般的のようです。