私の心情(106)―資産活用アドバイス39-団塊世代が「投資から貯蓄へ」を推進

最近は50代向けの資産活用のアイデアを聞かれることが多くなりました。その際に大切にしているメッセージは「20年後の日本の個人金融資産の動向を握るのは50代の資産活用ではないか」という点です。20年前の40₋60歳と20年後である現在の60代以上の比較をしてみると、今の60歳以上の層のこれまで行ってきた行動の課題が見えてきます。現在の50代はその轍を繰り返さないことが重要だと思います。改めて資産活用が重要だということだと考えていきたいと思います。

現預金と高齢者に偏る個人金融資産

個人金融資産に関してよく言われるのは、「現金・預金が個人金融資産の50%超を占めていて、米国に比べるとその比率は異常に高い」、「高齢者が個人金融資産の3分の2を占めている」という2つの指摘です。

前者は、日銀の資金循環統計のデータから、日本の個人金融資産の課題としてよく指摘される点です。これは、「貯蓄から投資へ」がなぜ必要なのかを説明する際によく使われてきました。ただ、2021年3月末の個人金融資産1946兆円のうち現金・預金は54.3%で、過去20年以上もこの比率はほとんど変化していませんでしたから、「貯蓄から投資へ」は上手くいかなかったことになります。

一方、後者は、年代別個人金融資産の公式データがないために、家計調査や全国家計構造調査などのデータをもとに年代別の金融資産保有額と世帯数を使った推計で算出しています。こちらは私も委員として議論に参加した金融審議会市場ワーキング・グループの報告書「高齢社会における資産形成・管理」のP16で60歳以上の金融資産の保有率は65.7%と推計値を出しています。「金融資産の現役層への移転」を求める相続や贈与の必要性、超高齢社会の金融資産の偏在の懸念を説くために使われていることが多いと思います。

高齢者が個人金融資産の4割強を預貯金で保有

ただ、両方を一覧できるデータは見たことがありませんでしたので、全国家計構造調査の世帯当たり金融資産残高を使って、年代別の保有金融資産構成比を推計してみました。40歳未満、40₋60歳、60歳以上の3世代ごとの現預金、生命保険等、有価証券(株式と投資信託)の残高とその世帯数から、3資産の年代別保有額を計算し、その合計に占める比率を使って、分布の状況をみたものが、下の表です。ただ、個人金融資産の統計には、ここであげている3金融商品以外の金融商品が含まれますし、個人の家計データでは保険準備金という概念はありませんので、その分、この推計データでは生命保険等の構成比がかなり小さくなっているはずです。そうした留意点を念頭においても、2019年のデータをみると、60歳以上が個人金融資産の4割以上を現預金として保有していることは、やはり異様に映ります。

20年前の40₋50代が20年かけて預貯金を急増

しかも特に注目したのが、1999年との比較で現れる大きな特徴です。1999年のデータは表の( )内に記載していますが、20年前の60歳以上は、個人金融資産の29%弱を預貯金で保有するに留まっていましたから、13.2ポイントも比率を引き上げたのです。20年の間に、高齢者はどうやって一気に現預金を増やしたのでしょうか。

個人金融資産総額は、1999年12月の1438兆円から2019年3月末の1835兆円まで27%増加したにすぎませんから、「他の金融資産を預貯金化してきた」というのが正しい表現なのかもしれません。

そこで現在の60歳以上が40₋60歳未満だった1999年のデータをみると、預貯金は全体の25.8%でした。この世代が退職という人生の大きな節目を乗り越えるなかで、いつの間にか全体の金融資産の41.9%を預貯金で保有するようになったわけです。この層は団塊世代を含むため、全国家計構造調査の調査対象世帯でも1999年に49%を占め、2019年では54%を占める中核世代とでした。

次回のコラムで、この層がどんな資産を減らして預貯金を増やしてきたのかをまとめます。