私の心情(88)―地方都市移住31-ホーム・エクイティを活用(長崎)

海外転勤2度、定年後はUターンで長崎に

新型コロナウイルスが蔓延する直前に、長崎に移住されたAさんも典型的な“転勤族”です。Aさんは62歳、奥様は60歳で、それぞれ島原市と長崎市の生まれとのこと。いわゆるUターンですが、結婚後から定年までの期間、実に何度も転勤されています。

Aさんは金融機関に勤務されたお父様の転勤もあって、子どものころに北九州、熊本と転居され、予備校で福岡、大学で東京に出ることに。大学卒業後、大手財閥系の会社に就職され、福島に3か月ほど研修で住んだあと、そこから10年弱は東京での生活でした。その間に大学卒業後も長崎に住んでいらっしゃった奥様とお見合いで結婚され、夫婦の新居も東京に。その後90年代初めにニューヨークに転勤され、3年半ほど住んで、また東京に戻られ、次はインドネシアに。アジア通貨危機の暴動のさなかに駐在されていたそうです。2001年に東京に戻られ、そのあと大阪に、さらに東京にそして福島に。再び東京に戻られたのが2006年。なんとも目まぐるしい転居を続ける会社員生活を過ごしていらっしゃいました。

そして定年を迎えられたのち2020年2月に、生まれ故郷の長崎に移住されました。「コロナ禍が広がる前だったので、送別会をやっていただけたのは今考えるとうれしいことだった」とのこと。確かに、今だと送別会はちょっと難しい状況ですね。

計画は漠然とながら30年くらい前から

「長崎に移住することはいつから考えていたのでしょうか」と伺ったところ、「もう30年くらい前から」とのこと。Aさんはお子さんがいらっしゃいません。それもあって定年後は、「奥様のご両親が住んでいらっしゃる長崎に帰ろうかな」と漠然と考えていたそうです。

漠然とした思いが、具体的な行動になったのは50代後半。奥様の実家に帰省される折に、地元の不動産屋を回って物件探しをされたようで、「やっぱり知っている不動産屋さんがいるのは助かる」との感想をお持ちでした。実はAさんのお父様が10年ほど前に亡くなられた際に、その不動産屋さんに家の売却をお願いした経緯があったようで、そのころからのお付き合いだそうです。

住宅の売却差額を活用

移住の資金繰りに関しても伺いました。勤めていた会社は45歳までは社宅に住めたそうです。社宅を出る際に住宅ローンを組んで東京の千歳船橋にマンションを購入。その際に重視したのが、「売りやすい物件」とのこと。長崎に移住することを想定されていたわけですから、当然ながらいつかは東京のマンションは売却することになります。その後、お父様がなくなられたこともあって、遺産として残された長崎の住宅を売却されて、その売却代金も使って50歳くらいにはローンを完済していらっしゃいました。これが結局、正解だった!

この千歳船橋のマンションを売却した代金を使って長崎にマンションを購入しても、売却差額が1000万円を優に超えるくらい残ったそうです。現役時代の給与も十分あり、社宅生活で住居費もそれほど大きな負担ではなく、さらに海外赴任時の上乗せ分もあって、それなりに資産は積みあがっていたようです。それにこのホーム・エクイティが上乗せされました。

一般に住宅の資産価値(売却時価)と住宅ローンの残債を、企業のバランスシート(貸借対照表)に置き換えると、その差額は資本(エクイティ)となります。これをホーム・エクイティといいます。これがAさんの場合にはかなりの余裕資金になったわけです。

料理三昧

現在、Aさんは長崎で悠々自適といえる生活をされています。毎日3回の食事を作り、ランニングをして、読書をするというのが日課とのこと。特に料理は、毎日Facebookに成果を載せるほどに熱心で、月1回、料理を習いに先生のご自宅に伺っていらっしゃいます。2時間ほどかけて料理を習い、先生と一緒に食事をして、都合4時間くらい話をしてくるそうです。これは料理を習うというよりは、ネットワークづくりなのかもしれません。

「長崎は魚が旨い。なので、釣りも覚えて、釣った魚を料理して、友人を呼んで・・・」と夢は広がっているようです。

ところで、長崎は坂が多いというイメージが強いのですが、Aさんによると「市内のほとんどのところは路面電車とバスを使っていける」そうです。また住む場所を選べば徒歩圏でかなりの生活が可能になるとのこと。実際、Aさんの自宅からはスーパーもショッピングモールも徒歩10分程度で行けるそうですし、ショッピングやレジャーエリアである元船町も車で行くよりはバスの方が便利で、しかも時間がかからないとのこと。

70歳までは働こうかと

そもそもAさんは長崎に移住しても仕事をするつもりだったようです。ただ、移住した時期がコロナ禍の始まった時期で、特に最初のころは状況が不透明すぎて、求人が大幅に減っていたとのこと。そのため、想定とは違って今は全く仕事をしない生活を送っています。悠々自適ではありますが、「できれば70歳くらいまでは仕事をするつもりだ」とのこと。

そのためには、仕事を探す必要があります。ここにきて、少しコロナ禍での生活のやり方が見え始めてきたのか、求人活動も動き出しているようで、7月には面接が始まるとのことで、仕事が見つかることを念じています。

インタビューを終えて

筆者は地方都市移住を、退職後の生活における資産寿命の延伸対策の1つと考えています。地方都市移住の効果は生活費の削減、すなわちダウンサイジングに置くことが多いのですが、Aさんのようにホーム・エクイティを活用することも大きなメリットになります。資産収入の原資を大きく増やす方法になります。

Aさんが仕事を探すことに関してあまり焦っているという感じを受けないのは、ホーム・エクイティのチカラなのかもしれません。