私の心情(84)―地方都市移住30-退職を1年早めて正解!(岐阜)

地方都市移住を実現した人のインタビューも6人目となり、今回のアンケートのなかでは最後の方となります。岐阜市在住のOさんは移住というよりは、退職して「やっと定住できた」という方でした。

20年近い単身赴任生活、定年1年前に退職

現在61歳のOさんはもともと岐阜県飛騨市の生まれで、お父様を早くに亡くされています。地元の名士ながら肉屋を開業したお父様は若くして亡くなられ、借財もあってお母さまが苦労されたとのこと。Oさんご自身も高校卒業とともに公務員として働き始め、夜間の大学を卒業するなどご苦労をされています。奥様とは、早くからお付き合いをされていたのですが、結婚はOさんが39歳、奥様が35歳の時。そのため、娘さんは現在高校2年生と、これからまだ教育費がかかる年齢です。「医学部に行きたいらしいけど、卒業するのは私が70歳近くになるころなんです」と微妙な感じでおっしゃっています。

結婚された翌年の40歳くらいから長らく単身赴任の生活が続きました。40歳くらいには、役職も付くようになって、京都、大阪、東京、金沢、名古屋、津、名古屋、岐阜と転居を伴って赴任をされています。奥様は医療関係のお仕事に就かれていることもあって、Oさんは単身赴任。58歳の時に、「そろそろ岐阜に帰らせてほしい」との願いが叶って、岐阜県大垣市に赴任。ところが数か月で、名古屋に戻ってほしいとの依頼を受けたそうです。それを断ったこともあって、定年の1年前2019年に59歳で公務員を退職してしまいます。ただ、「60歳からの再雇用を約束させた」とのことで、このあたりはしっかりしているなと思いました。

1年早く退職したことでコロナの影響を受けずに気ままな一人旅行の1年

さらに驚くのはそれからの1年間です。もともと数年前から「定年になったら1年間ほどぶらぶらしよう」と計画していたとのことで、「そのための資金400万円も準備していた」とのこと。退職金は全額、奥様の管理下に置くことを前提に自由期間を得て、59歳の1年間は「単身赴任」ではなく、一人で気ままに過ごす「単身“浮遊”」とでも呼べそうな生活です。2019年の5月にはベトナム、カンボジア、8月にはトルコ、2020年1月にはモロッコとUAEと海外一人旅、さらにその合間を縫って、室蘭と新日高町でそれぞれ2か月と3か月の移住体験ツアーにも参加されています。もちろんこれも“おひとりで”です。

「もともと北海道に移住したいと思っていたので、この通算5か月となる北海道での移住体験ツアーは本当に楽しかった」とのこと。ただ、奥様は仕事があり、娘さんは学校があるので参加できないのが、ご本人だけでなく、きっと移住体験ツアー主催者側にも少し不満が残るものだったのではないでしょうか。

ところでこの2019年の「単身“浮遊”」は、もし定年まで待っていたら新型コロナ蔓延の影響でできなかったはずです。その意味では、「最後の1年を残しても公務員をやめたという決断は正解だった」とおっしゃっています。

趣味がすべて叶う街

濃尾平野の北端に位置する岐阜市は「自分にとっては本当に住みやすいところ」。インストラクターもやっているスキーは「車で1時も行けばゲレンデがある」し、夏は「好きな鮎釣りを堪能できる長良川がある」。また名古屋への30分くらいで出られる近さで、「中部国際空港にも名鉄を使えば1本で繋がっている」。病院も近くにあって、高齢になってからも気にならない。

しっかりとした備えでこれからの10年を想定

さて、退職後の生活資金面についても伺いました。まずは退職金です。先ほどの通り、退職金は今、奥様の管理下に置かれていますが、これは娘さんの医学部費用にと残していらっしゃいます。来年にはお嬢さんの進路も決まることから、「それを待って今後の生活を考えよう」と思っていらっしゃいます。コロナ禍で医療現場の大変さを知って娘さんが少し医学部への進学に躊躇し始めているようです。もし断念するなら、その退職金は退職後の生活費に充当できることから、家を買ってもいいかと考えていらっしゃいます。

一方、勤労収入は70歳まで確保できているようです。59歳の1年間を自儘に過ごしたものの「実は60歳からの公務員としての再雇用は確保」していたとのことで、現在、週4日の仕事ながら月21万円くらいの収入があるそうです。そのほかに奥様の医療関係のお仕事からの収入もありますから、賃貸であるご自宅の家賃を考慮しても生活はそれほど問題なさそうです。それに、つい最近、「70歳まで勤められる他のポジションのオファーがあった」とのことで、これで「勤労収入は70歳まで確保できた」と喜んでいらっしゃいました。さすが公務員!

アパート収入も想定できている

また金融資産のほかに、大阪にアパートも1棟所有されています。6部屋ある大阪のアパートの「賃料収入は月額30万円以上」あって、まだ「2000万円ほど残っているローン」の返済を差し引いても、「毎月16万円くらいの黒字」とのこと。その資金は手を付けないで、今後の生活のために使えると目論んでいらっしゃいます。もともと東京でワンルームマンションを約1500万円ずつ2部屋所有されていたのですが、経年で家賃が下がることがわかってきて、それを避ける方法として1棟丸ごと所有するべきだと考えられたようです。その場合には、もう少し地価の安いところにせざるを得ず、選んだのが大阪。5年前に土地と建物合わせて8000万円のアパートを1棟建てたそうです。頭金は東京のワンルームマンションの売却代金2000万円を充て、残りはローンで調達。当初の数年は収益もすべて返済に回すことを続けてきたので、今はローン残高が2000万円まで減っています。最近は、収益の出ている分すべてを返済に回さず、蓄えに回しているとのこと。なお、15年くらいで大規模修繕も想定されることから70歳前後にはそのための資金が必要になるとも試算されています。

インタビューを終えて

Oさんの退職後の生活パターンは、勤労収入と資産収入をしっかり確保することで成り立っています。晩婚から大学生のお子様を抱えて退職を迎える話はよく聞きます。教育費と退職後の生活資金が必要になることからなかなか厳しい生活環境になりがちですが、Oさんの場合には、公務員として長く働ける基盤を作りながら、一方で不動産収入というフローも作るという計画的なアプローチがきれいに出来上がっていますから、この厳しい状況をうまく乗り切れるように感じました。誰でもできることではないかもしれませんが、インタビューを通して、早くからの準備がこれを可能にするように思います。