私の心情(70)―お金との向き合い方22-高齢者が社会の”負債”ではなく”資産“となる時代に
現役時代が3000万人も減少する時代
今更ですが、日本の超高齢社会について確認をしておきましょう。日本の高齢化率、すなわち全人口に占める65歳以上の人口比率はすでに28%を超え、国立社会保障・人口問題研究所の推計では2065年には40%に近づくとしています。
問題は高齢化率上昇の背景です。2015年の国勢調査の結果をもとに推計していますが、その時の人口は0-14歳が1595万人、15-64歳が7728万人、65歳以上が3387万人です。それが2065年にはそれぞれ898万人、4529万人、3381万人に変わるとしています。注目すべきは65歳以上人口が横ばいで、総人口なかでも労働人口といわれる15-64歳が3000万人以上も減少することです。
これからは従来の高齢化とは全く異なる高齢化を迎えます。現役世代の人口が変わらないなかでの高齢者の増加はいわば「現役世代の負担増」という課題だけでした。しかし、高齢者数が変わらないなかで現役世代が大幅に減ることは、日本経済そのものの活力が失われかねないことでもあります。単純に現役世代の負担が増えるだけでなく、日本経済の活力をどう維持・拡大させられるかといった、大きな課題も抱えながらの高齢化進行となるのです。
高齢者保有の2000兆円が日本経済の活力に
そこで考えたいのが、高齢者の消費の覚醒です。コラム「私の心情53」では個人金融資産と個人が保有する土地などの資産を合わせて「個人資産」と表現していますが、その額は2019年で3000兆円を超えました。そのうちの個人金融資産では65.7%を60歳以上が保有すると推計されています(金融審議会市場ワーキング・グループの報告書「高齢社会における資産形成・管理」、2019年6月、P16、2014年データ)。土地保有はさらに比率が高いのではないかと思われます(国税庁、平成30年分相続税の申告事績の概要、令和2年12月でみると、令和元年相続財産16.8兆円の39.6%)。ここから考えると、高齢者は個人資産の少なくとも3分の2以上を保有しているとみられ、その総額は2000兆円を超える金額となります。
この2000兆円こそ、これからの日本経済を支えるチカラになると考えています。2000兆円のわずか0.25%、5兆円が消費に流れ出せば、それだけでGDP1%に相当する経済規模です。その波及も考えれば、さらに大きな経済効果が期待できます。
高齢者は自身の老後のことを心配でして「できるだけ資産を使わない生活」を心掛けます。その結果、毎年推計で50兆円規模の資産が相続されています。しかもそのほとんどが老々相続です。簡易生命表(2019年版)で年間4000人を超える死亡数となる年齢みると、男性で86-89歳、女性で88-96歳でした。この年齢では夫から妻への一次相続はもとより、妻から子どもへの二次相続でもほぼ老々相続であることがわかります。この50兆円が高齢者から高齢者に相続されることで、常に老後の費用として位置づけられてなかなか消費に漏出してこないのです。先ほどの5兆円は毎年の相続額の1割程度ですから、その程度が消費に回っても、高齢者の相続や安心感にそれほど大きなマイナスはないはずです。高齢者の上手な消費が日本経済を助けることにつながるはずです。