私の心情(67)―地方都市移住18-地方都市移住の効用と成功のポイント
今回は地方都市移住のアンケート調査から「東京、大阪、名古屋に在住、またはそこから10年以内に地方都市に移住した2305人の60代」を対象にして、地方都市移住の意味を探ってみたいと思います。
アンケート調査そのものはフィンウェル研究所の活動の前提でもある、
退職後の生活費 = 年金収入 + 勤労収入 + 資産収入
という考え方をもとに行っています。今回は、このなかの「退職後の生活費」の引き下げという視点で、地方都市移住の効用を考えてみたいと思います。
地方都市、家賃は6割安い
まずは地方都市移住が退職後の生活費の削減に効果があるかどうかです。一般的には、東京、大阪、名古屋の3大都市と比べると、地方都市の消費者物価は安く、さらに家賃に代表される住居費も大幅に安いことが知られています。データは少し古いのですが、表を見ていただくと、30‐70万人程度の地方都市では、東京都区部と比べると消費者物価は3‐4%安く、家賃は6割安いといった実態です。
地方都市移住、決め手は生活コストダウン
地方都市への移住を検討している人(2019年536人、2021年179人)に「移住を決めるポイント」を聞いてみると、第1位が「実家がある」という馴染み、第2位が「以前から住んでみたいと思っていた」という憧れ、第3位が「生活コストが削減できる」の実利、の順となります。しかし、実際に移住した人(2019年306人、2021年269人)では、第1位は同じく「実家」ですが、第2位は「生活コストの削減」で、第3位が「住んでみたいと思っていた」に入れ替わります。憧れと実利が逆転するわけです。
なお、今回、移住を検討するポイントとして、「コロナ禍の影響」を選択肢に入れてみましたが、16.2%の人が選んでいます。現役世代だけでなく、60代でもコロナ禍を避けるために大都市から移住したいと考えている人が一定数いるようです。
一方で移住を諦めた人にその理由を聞いてみると、「考えてはいてもなかなか踏み切れない」との回答が4割ほどいます。実際、移住となると大きな決断ですから簡単ではないことはよくわかります。しかしそれでも多くの人が地方都市への移住を検討し、実際に移住している事実は「移住が大切な選択肢である」ことを示しています。
今回、初めて複数回答の選択肢に「仕事が見つからないと感じたから」を入れましたが、4人に1人がこの選択肢を選んでおり、重要なポイントであることがわかります。ただ、2019年の結果との比較で見ると、他の選択肢がそれほど変化していませんから、追加された選択肢である「仕事が見つからなさそう」という課題は2次的なものなのかもしれません。
地方都市移住、7割が良かったと評価
移住した269人に「移住の評価」を聞いてみたところ、「移住してよかった」と回答した人は72.9%に達しました。2019年の82.7%よりは10ポイント低下していますが、依然として高い水準です。
その評価のポイントはやはり「生活費の削減」です。地方都市に移住して良かったと回答した人の52.0%が、その理由として「生活費の削減が可能になった」ことを挙げています。逆に、移住が思ったほど良くなかったと回答した人の最大の理由も「思ったほど生活コストが下がらなかった」ことです。移住は生活費の削減という視点で準備・検討することが非常に重要だということがわかります。
ところで60代になって移住をする際に、常に指摘される課題は「現在住んでいるところの友人ネットワークがなくなることは避けたい」という点です。ただ、今回のアンケートでも「新しい趣味が見つかる」、「新しい人とのネットワークができた」、「家族・夫婦関係がよくなった」といった新しい人的ネットワークの構築が評価のポイントになったと指摘する人はかなりの数に上っています。それぞれの比率は表のとおりですが、これら3つのポイントのどれかを選んでいる人を集計してみると、全体の52.0%に達していました。地方都市移住は、懸念するほどに人の暮らしの「ゆとり」の部分に悪くないことがわかります。