私の心情(64)―資産活用アドバイス28-アドバイス・ギャップとロボアド

今は安価なNutmeg

ロボアド。Wealth NAVIの資産残高が4月に4000億円を突破するなど、日本でも注目を集めていますね。前回のコラムでは、アドバイスの定義をまとめましたが、その議論で思い出したのが、ロンドンに出張に行ったときに会った現地のロボアド、いやオンライン資産運用サービス会社(自らはDigital wealth managerとかOnline discretionary investment management companyと呼んでいます)NutmegのCo-Founder、Nick Hungerford氏の話です。

Nutmegは2011年に創業し、今や英国最大のロボアドとなっています。インタビュー当時、Nick氏は「ロボアドで(当時すでに課題となっていた)アドバイス・ギャップを埋めることが社会的使命だ」と強調し、「大航海時代に高価だったナツメグが今や安価で入手できるのと同じように資産運用アドバイスをもっと安価に提供できることを社名に込めている」と熱く語ってくれました。

Advice Unitでロボアドを育成

FAMRの最終レポート(2016年)で提案された3分野25項目のなかで、「受け入れ安いサービス価格を目指す」ための具体的な施策の一つがテクノロジーの利用でした。2016年6月からFCA(金融行為規制機構)内にAdvice Unitが設置され、企業がより低コストのアドバイス、ガイダンスを提供するための技術開発に関して、当該企業に規制上のフィードバックを提供する業務を開始しました。一定の条件を満たした企業やその開発モデルに対して、①個別ミーティングを行って事業の評価を行う、②同意できた中間目標の継続的な達成に向けて専属のスタッフを用意する、③開発されるモデルに関して必要なフィードバックを行う、④当該企業がまだ認可されていなければ認可に向けて手助けを行う、といった認可に関するサポートを担い、そうした一連の作業の中で確認できたノウハウをホームページ上でsignposts to existing rules and guidanceと名付けて公開してきました。

こうした施策は単にロボアドの開発を支援するという面だけではありませんでした。通常のアドバイス・コストを削減することでアドバイス・フィーそのものの引き下げが進むことも視野に入れていました。

ちなみに日本にも金融庁の中に同様の組織、FinTech実証実験ハブがあって、これまでに8件の支援決定案件があり、そのうち4件が実験結果を公表しています。詳細はリンクしたURLから金融庁の情報にアクセスしてください。

ロボアドが受け入れられていない実態

ロボアドはその低価格なサービスゆえに、RDR(手数料制の撤廃)以降に発生したアドバイス・ギャップを解消できる大きな担い手と考えられてきました。しかし、2019年11月28日にFCAが発表した調査レポートでは、必ずしも消費者が十分にロボアドを受け入れていない実態が明らかになっています。

1800人にロボアドからのアドバイスを受けたと仮定してその反応を調べた同調査(Insight; Opinion and analysis hosted by the FCA, Robo Advice ― will consumers get with the  programme? Nov. 28, 2019)によると、消費者は容易にロボアドを受け入れない姿が浮かび上がりました。回答者の57%がその提案を受け入れないとしており、アドバイスの内容が自身の目標やリスク許容度に合致していても56%が拒否し、合致していない場合には58%が拒否していて、アドバイスの中身が問題ではなかったことが窺われます。ただ、年齢別にみると18-34歳では47%、35-54歳で53%、55歳以上で63%と、年齢が上がるほど受け入れない比率が高まっていることも分かりました。55歳以上はオンラインでのサービスに距離感があるとはいえ、退職をめぐって年金資産といった大きな資金の活用が重要になる時期にアドバイスを拒否することの懸念は大きいといわざるを得ません。もちろん、若年層ほど拒否率は相対的に低いのですが、47%という数値は過小評価できない水準です。また大企業の提供するロボアドでは拒否率が30%で、信頼の低い企業の提供するロボアドは拒否率65%だった点も注目されます。さらに、ロボアドの受け入れ度合いを9ランクで評価した結果では、分布に大きなばらつきがあり、最も受け入れ度合いの低い層は全体の30%にも及び、ロボ・アドバイスの浸透に課題があることが浮かびあがっています。

ロボアドの代わりに家族?

またロボ・アドを受け入れなかった人たちに、その代替案も聞いています。選択肢は、①ファイナンシャル・アドバイザー、②友人・家族、③自分で考える、の3つで、結果はそれぞれに72%、21%、7%となりました。FCAによると、それぞれの特徴は、①は女性の比率が相対的に高く、②は若年層で金融リテラシーが低く、社会・経済状態が悪い人たちが多い、③は男性で中年、銀行への信頼度が高く金融リテラシーも相対的に高いといった特徴がみられたとのこと。

退職時期にある高齢層でロボアドに対する拒否率が高いことや、ロボアドを拒否して家族や友人に依存するといった若年層が多いことは、最もアドバイス・ギャップで不利益を被っている層に対して、ロボアドが十分に貢献していないという課題を浮き彫りにしています。