私の心情(61)―資産活用アドバイス26-IFAを考える:その3
IFAを考える3回シリーズは、第1回「今なぜIFAが注目されるのか」、第2回「地銀と証券会社の連携のもとに見えるIFAビジネス」に続いて、第3回「日本のプラットフォーマー」についてまとめて、締めとします。
IFAの「業」と「あり様」
日本におけるIFAやプラットフォーマーというビジネスは、まだ助走期にあると考えています。その議論を整理するためにもまずは言葉の定義をしっかりしております。
日本では金融仲介業者をIFAと呼んでいます。しかし、本来、金融仲介業者は認可されている「業」を表す言葉で、IFAはそのビジネスの「あり様」を表す言葉ですから、同じものではありません。第1回でまとめた通り「I」が「お客様の側に立っている」ことを示している「あり様」であれば、金融仲介業者のなかには「I」である人ばかりではありません。もちろんアドバイスをしない人、すなわち「A」でさえない人もいるかもしれません。
2つのプラットフォーマー
プラットフォーマーも「いわゆる委託証券会社と事業支援のプラットフォーマーがいる」(日本資産運用基盤株式会社代表取締役社長の大原啓一氏)といわれています。オンライン証券や大手証券会社などの委託証券会社は、金融仲介業者を取り込む動きを強めています。地域金融機関と証券会社の連携の動きはその一環とみることができます。一方で事業支援型のプラットフォーマーは、金融ビジネスのアンバンドリングでアウトソースが可能なビジネスに特化したプラットフォーマーです。そうした事業支援プラットフォーマーのなかで私が一番注目しているのはコンプライアンス業務のプラットフォーマーです。すべての金融機関が内部に抱えこんできたビジネスをアウトソースすることで、規模の経済と第三者化することによる標準化=可視化が可能になる機能は多いはずです。
どちらのビジネスモデルも、米国においてはIFA側から見れば「パワード・スーツのようなもの」(明治大学国際日本学部特任准教授沼田優子氏)で、IFAの業務を支えてくれて、カスタマイズが効き、さらにその使い方もサポートしてくれるというのが差別化のポイントだとされています。「IFAのデスクトップのシェア争いのようなもの」(前述沼田氏)というのはわかりやすい指摘ではないでしょうか。
日本の雁行のトップは委託証券会社か
このところよく聞くのが、“ニワトリと卵”の議論です。IFAからは「プラットフォーマーがいないとIFAは広がらない」、プラットフォーマーを目指す側からは「IFAが広まらないとビジネスになりにくい」というものです。ただ、ここで注目したいのは、委託証券会社が積極的にプラットフォーマーとして動き始めていることです。金融仲介業者はオンライン証券を委託証券会社としてその所属となっているところが多くあります。また既に紹介した銀証連携の動きは委託証券会社がIFAを傘下に置こうとする流れの一環といえます。その意味では、プラットフォーマーとしての委託証券会社は雁行の先陣を切っているように伺えます。
金融サービス仲介業がより独立的なビジネスにつながるかも
IFA側からみると、ビジネスのあり様を「I」とするためには、委託証券会社との所属制は大きな縛りになりかねません。ただ、現状では複数の証券会社の所属となれることから、その懸念は少ないといわれていますし、2021年に新たにスタートする「金融サービス仲介業」は所属制を採用していません(その代わりガバナンスを自前で行う必要がある)ので、一段と独立的にビジネスを展開することが可能になってきます。
DC運営管理機関も潜在的なプラットフォーマー
さらにプラットフォーマーをバックオフィス業務として考えれば、確定拠出年金の運営管理機関である信託銀行や保険会社も今後参入してくる可能性があると考えています。ある意味では、プラットフォームビジネスとは、より親和性の高いのが確定拠出年金の運営管理業務かもしれません。前述の金融サービス仲介業は、証券、保険、銀行の仲介を一度に登録できる「業」となりますから、信託銀行や保険会社にとっても新しいビジネスのチャンスが生まれる可能性があります。
これらビジネスの特徴は、既存ビジネスのシステムやスキームの適用範囲を拡大させるだけでIFAのプラットフォーマーになりえる素地を持っていることでしょう。これに対して事業支援のプラットフォーマーは、個別機能のアウトソースを受けることになりますから、規模の経済が見込めるまでは苦しい時期が続くことになります。この点では「ニワトリの卵」の議論になるでしょうが、既存ビジネスからのプラットフォーマー進出に際して、こうした事業支援型のプラットフォーマーとの連携が進捗することも今後注目されると思います。
地方銀行も参入へ
地方銀行にとっては2つの選択肢で可能性が広がります。1つは地域密着をアドバンテージとしてIFAビジネスに参入することです。既に地方銀行は投信販売などで業務を展開していますが、その裾野を広げ、かつ商品販売ではなくアドバイスビジネスに本格的に参入することになります。もう1つは地方銀行の持つ既存のInternet Bankingのシステムを使って、先述の事業支援型プラットフォーマーと組むことで地域のIFAを取り込むプラットフォーマーとなることです。どちらも簡単なことではありませんが、生き残りをかけた戦略を求められている地方銀行にとっては選択肢として考慮すべきものではないでしょうか。
特に「顧客本位の業務運営」では、ライフプランニング、アフターフォローが明記されたことから、金融機関にとってはこうしたアドバイス的な業務がこれまで以上に重視すべきものになります。その際に、商品販売による手数料ではアドバイスサービスは十分にカバーできませんから、アドバイスというサービスに対価を求める方向にシフトせざるを得なくなります。「顧客本位の業務運営」がビジネス上の負荷の増加と捉えるのではなく、これを取り込むことがビジネス上のアドバンテージになるという立ち位置に変わる時代が近づいているように思います。