私の心情(59)―資産活用アドバイス24-IFAを考える:その1
2020年12月に共著「IFAとは何者か」と題する本を上梓ましたが、そのプロモーションもあってこれをテーマにするセミナーをたくさんやらせていただいています。私は英国のデータ分析を中心にして、英国での議論を紹介することが多いのですが、今回は他2名の共著者、明治大学国際日本学部特任准教授沼田優子氏と日本資産運用基盤株式会社代表取締役社長の大原啓一氏の意見も紹介しながら、IFAとそれを取り巻く環境を私なりの解釈で3回くらいに分けてまとめてみたいと思います。
超高齢社会からの要請
まずはなぜ今IFAが注目されているのかです。私は2つの理由があると思っています。まずは日本の超高齢社会が一段と進展していることです。「資産活用世代」がお金と向き合うこと、資産形成世代のそれと比べると雲泥に難しいものです。既に資産が出来上がっていることが前提ですから、まずは「失うことの怖さ」があります。さらに「引き出して資産を使う」というお金との向き合い方は、これまで日本ではほとんど知見を積み重ねてこなかった分野ですから、専門家でさえどうアドバイスしていいのかわからないのが実情です。しかも加齢に伴って自分でできることはどんどん限られてきますから、第三者に依存する度合いは高まらざるを得ないのです。金融審議会市場ワーキング・グループで「高齢者の側にたってアドバイスをする担い手」が注目され、議論されたのもそうした流れの一環だと思っています。これがIFAに対する社会的要請、超高齢社会の持っている必然なのです。
ところでここでいう「高齢者(顧客)の側に立つ」というのが、IFAの定義を考える際の「I」、Independentに該当することだと考えています。すなわち、売り手の側ではなく、買い手の側に立つことで、中立性、独立性が保てるというわけです。決して資本の独立性を議論していることではありません。
業界慣行の変化として現れた手数料制撤廃の動き
第2の理由は金融業界慣行の変化です。その一つ目は投信の販売手数料0%の動きです。手数料制の撤廃は、英国ではRDRと呼ばれる制度の変更によって2013年に一斉に行われましたが、日本ではオンライン証券が投信販売手数料を0%にする施策を打ち出し、業界慣行の変化として進み始めました。これによって、「金融ビジネスの付加価値(=収益の源泉)が変わる」(大原氏)ことになります。商品を売ることで利益を得るビジネスモデルから、アドバイスというサービスを提供することで対価を得るビジネスモデルに変わる流れです。
もうひとつの業界慣行の変化として挙げられるのが、「顧客本位の業務運営」の重視です。顧客本位の業務運営はいわゆる制度の変化ではなく、ビジネスを行う際の原則の“対外的な明示”だといわれています。そこで7原則の第2として挙げられている「顧客の最善の利益の追求」ですが、その際の「最善の利益」とは何かという点が重視され始めています。すなわち、「パフォーマンスだけが「利益」ではない」(沼田氏)という指摘に表れている通り、儲けの大きさだけではなく、その安定的な獲得のプロセス、社会に対する好影響など、顧客によってその利益(=求めるもの)は違ってくるはずです。それを追求すると、単に金融商品を販売するビジネスではなく、その後のフォローアップなどが重視されることにもつながってきます。もちろん、継続的なコーチングによって長期投資を実現できれば、その分パフォーマンスの上乗せ(アドバイスα)も期待できます。