私の心情(40)―資産活用アドバイス16-英国年金制度とIFA
私の心情(40)―資産活用アドバイス16-英国年金制度とIFA
IFAのビジネス環境をもうひとつ支えているのが、確定拠出年金(DC)の制度とその利用拡大策だと思います。日本では、2017年から個人型確定拠出年金、いわゆるiDeCoの対象範囲が拡充され、人気を集めていますが、まだまだ参考にできるところは多くあるように思います。もちろん制度を新たに導入すべきという議論で「待ちの姿勢」を求めるわけではなく、すでにある制度をどう活用するかをIFA自ら考える必要もありそうです。そこで、改めて英国の制度の変化と、その成果を紹介することにします。
すべての人が自動的に加入する企業年金制度
英国では1980年代の制度改革に伴って、社会保障制度が縮小されたことから公的年金制度が十分に国民の退職後の生活をカバーできなくなってきました。2002年に設立されたPensions Commission(年金委員会)はそうした状況から退職後の生活をカバーするための手段として私的年金、自助努力の充実を訴え、2005年に発表した報告書(最終報告書は2006年)では、私的年金の拡充策が必要との認識を示しています。その後、2008年にはThe Pension Act 2008が制定され、 2012年から「すべての働く人が自動的に加入する企業年金制度」が創設されることになりました。
7年で800万人以上が企業年金に加入
この制度のもと、2012年から2018年までの間に、大企業から零細企業まですべての企業が何らかの形で企業年金を導入することが義務付けられました。そして従業員は一度、自動的にこの年金制度に加入することになり、必要でないと考えれば脱退権(オプトアウト)を行使して脱退することができます。また拠出額についても、2018年までに最低でも給与に対して本人が4%、雇用主が3%、政府の税の戻り1%で合計8%の拠出することが義務付けられました。
中小企業にとっては、いわゆる確定給付型の企業年金(DB)を導入することは負担が大きすぎます。そこで、政府は確定拠出年金を提供する金融機関としてNEST(National Employment Savings Trust、国家雇用貯蓄信託)を設立(運用は民間)し、中小企業が従業員に確定拠出年金(DC)を提供できるよう制度面で後押しをしています。このNESTは、大企業でも活用され、結果として2011年に民間企業で企業年金に加入している人が580万人、対象者の42%程度だったのですが、2018年には1388万人、同85%まで急回復する原動力となりました。
確定拠出年金へのアドバイスが重要
英国では企業年金は転職するごとに口座を作ることができ、またそれを統合することもできます。年金口座を含めた多様な退職後年収を作り出す手段が登場してきたことで、IFAにとっては、どういった口座を持つべきか、どういった運用をするべきか、どうやって、どこに口座の統合をすべきなど、アドバイスの対象範囲が拡大し、その潜在的なニーズを掘り起こすことにつながったといえます。
iDeCo+で日本でもすべての人が加入できる企業年金を
日本にはiDeCo+(イデコプラス)があります。これは、企業年金の無い中小企業にとってうまく使えば企業年金の代わりになるものです。従業員がiDeCoに加入している場合、企業がその従業員の加入者掛金に追加して掛金を拠出できる制度です。2020年10月に、それまでの従業員100人以下から300人以下に拡大されていますからかなりの企業が対象になります。こうした制度を活用できるようにすることで、日本にもアドバイスを求める潜在的な顧客を生み出すことができるかもしれません。