私の心情(16)-地方都市移住ー倉敷市児島に移住したKさん、その2

特殊な地方都市移住ではない―その2

Kさんの趣味は読書と観劇。読書は現役時代に買い貯めていた無数の書籍を定年になってから読み始めているとのこと。かなりの洋書もあって決して医薬関係の専門書だけでなく、小説なども多く、楽しみに時間を過ごしているとのことです。観劇では、電車で20分ほどの岡山に行くよりは、東京や大阪に行くことが多くて、2か月に1度くらい観劇のために出かけているとのこと。東京へは、児島から岡山に出て、そこから新幹線を使えば3時間強で東京に着きます。しかし、Kさんはそれよりも岡山桃太郎空港から格安航空を使うことが多いとか。何しろ格安航空券なら往復2万円くらいで行けるため、「新幹線よりやすく済む」ことが理由とのこと。観劇に合わせて会社時代の同期と待ち合わせて親睦会をすることも多いようだ。同期の人も、まだ継続雇用を続けている人もあれば、子会社・関連会社に出ている人もいる。

ところで、Kさんは今、完全な無職。すでに厚生年金は受給していて今は月額13万円程度。これに母親の遺族年金10万円をあわせて、親子で「普段の生活に特に不自由になることはない」とのこと。ただ、観劇のための東京・大阪行きは持ち出しになり、築年数の経過で劣化した住宅のリフォーム費用も無視できないとのことで、決して将来の生活が気にならないわけではないようだ。退職金は3000万円ほどあって、銀行に振り込まれたときには、銀行から金融資産運用などの勧誘もあったが、「投資はギャンブルみたいなものだと感じている」のですべて断ったとのこと。現役時代は確定拠出年金も退職金の一部として準備してきたが、その掛け金は全部預金だったとのことで、「資産運用には全く知識がない」。現役時代は三井住友銀行を使っていたが、今は近くにある広島銀行にすべて移し替えたとのこと。

ところでまだ64歳で「仕事に復帰するつもりはありませんか」と聞いてみたのですが、「何しろ児島では仕事を探すのは難しい」のが実際で、本人曰く「展望はなさそう」。インタビューの場にもタブレット端末を持って来られるなど、PC、タブレット、スマホともに使いこなせていて、現役時代の知識を使って医薬品関係の翻訳の仕事もできると自己評価されていた。「オンラインで仕事を受けるフリーランスなどはどうか」と聞いてみたが、「医薬関係といった専門分野であっても出版関連は厳しい状況」らしく、仕事のニーズはありそうにない、と諦めている感じだった。

今の生活について感想を聞くと、「都会で1人暮らしだったらきっと苦しくて、リラックスできなかったと思う」とのことで、「もともとインドア派だから、今の読書に没頭
できる生活はストレスもなく良い環境だ」と思っているようだ。もちろん「児島は高校まで暮らした街だから地元に友人がいるとはいえ、児島を出てから年に1-2回しか帰らない」場所なので、「それほど強いコミュニテイーの一員というわけにはいかない」。ただ「私がUターンしてきたことをどこからか聞きつけて、昔の仲間の方から連絡をつけてきてくれた」と喜んでいました。

将来、母親の介護が必要になった時にどうなるのか心配なうえ、自分が1人になった時にどういった生活になるのかも気になっている様子だった。ボケ防止も兼ねて母親には週に1回デイサービスに通わせているとのこと。

ところで、今回の取材には、女性として、妻としての目線からも移住に関するコメントを得ようと、私の妻も同行しました。Kさんが離婚されていたこともあって若干躊躇したのですが、Kさんの会話の中で趣味が観劇であることや、そのために「岡山空港から東京に2カ月に1回程度出かける」といったところには、相槌を打っていたことが気になりました。やはり女性の目線は、東京でのネットワークを維持するためのコストをどう考えるか、これも欠かせないのでしょう。

なお、私は児島のJeans Streetで桃太郎ジーンズを1本買いました。そして児島からバスを使って倉敷の大原美術館へ。夫婦そろって児島虎次郎の洋画に感動し、倉敷市中心地もなかなかいいものだと、ちょっと見直しました。