私の心情(94)―資産活用アドバイス32-FIRE、取り崩しリスクの軽減方法
私の心情(87)で「FIRE、Financial Independence Retire Early」における引出面での懸念を紹介しましたが、それは引出面での課題である「収益率配列のリスク(Sequence of Returns Risk)」にあります。「FIRE 最強の早期リタイア術」(クリスティー・シェン&ブライス・リャン著、岩本正明訳、ダイヤモンド社、2020年3月)という本でもしっかり触れられていて、米国ではやはり「収益率配列のリスク」は、重要なポイントになっていることがわかります。さすがだと思います。残念ながら日本の書籍では、「資産を作ること」、「1億円を作ること」にフォーカスが当たりすぎていて、「作った資産をどうやって引き出すか」、「引き出し方も資産を作ることと同様に重要」といった点が見落とされがちです。
FIRE後の前半で低い収益率は予想外の元本毀損をもたらす
保有資産の運用において長期間の収益率の見通しはある程度想定できるものの、毎年の収益率見通しは絶対に想定できません。例えば、期間の平均収益率3%で設計されたポートフォリオでも、毎年の収益率がずっと3%になるということはありません。そうした中で、毎年定額の引き出しをすると、平均収益率が想定通りだったとしても、毎年の収益率がどうなるかによっては予想外に元本が毀損することがあります。これが「収益率配列のリスク」です。
特に引き出しながら運用する場合の前半時期にマイナスの収益率または想定収益を下回る収益率が発生すると、収益率の低下と引き出しのダブルで元本が想定以上に毀損し、場合によっては資産が枯渇する懸念が出てきます。
現金クッション
前述の書籍ではその対策として「現金クッション」という考え方も例示されていました。もし前半に収益率の低い状況に陥った場合には、運用資産から資金を引き出さないで別に用意しておく「預金」から資金を引き出して、運用資産に負荷をかけないようにするという方法です。預金を緩衝材として、低い運用収益率の際には引出資産にするというアイデアです。
ただ、そのためには、運用資産の他にある程度の預金という資産も別に積み上げなければなりません。その点が、この対策の課題とも言えます。
擬似FIRE
退職後の生活の前半に起きる急落に備えるという発想であれば、その間だけの現金クッションとすれば、それは仕事でもいいはずです。FIREのFIの部分(経済的自立)が達成できれば、何もRE(早期退職)である必要はありません。運用している資産の急落時に、「他からの生活費の足しになればいい」という程度で働くということでもいいのではないでしょうか。この場合にはFIREではないかもしれませんが、心持ちはFIREと同じ「擬似FIRE」とでもいえばいいものでしょう。
その他にも安定的に入ると想定されるのであれば「配当金」をクッションとして使う方法もあるかもしれません。この点については、別のチャンスに具体例をみながら検討しみたいと思います。