私の心情(79)―地方都市移住27-自活ががんを克服させる(福岡)
がんの治癒をめざして単身生活
今回は柏市に奥様と娘さんが住んでいて、4年前に単身移住した福岡市のKさん、69歳です。
「2015年に悪性リンパ腫で脾臓、胃などを摘出し、2か月間の入院をしたんです」から始まったインタビュー。オンラインとは言え、お話されるKさんにはそんな気配すらなかったのですが、なかなか壮絶なストリーを聞かせていただくことになりました。「手術後に抗がん剤による治療を続け、途中でアスペルギルス肺炎に罹患してしまい、予定以上に治療期間が長くなった」とのこと。2016年6月まで治療に専念され、その年の12月でサラリーマン生活から離れ、そして翌年2017年2月に福岡市へ単身で移住しました。現在、スキップフロア付き1Kの賃貸アパートに暮らしていらっしゃいます。
「なぜ単身なのですか?」の質問に、「自活したことでがんを克服できたと思う」との回答でした。抗がん剤治療中とその後の経過観察などの時期は「家族と一緒にいると、つい甘えてしまう」と考えられたようです。大学時代まで住んでいた故郷の福岡市にUターンして一人で生活することで、自分の生活を律し、がんと向き合おうと決意されたようです。
フラットな福岡、自転車に最適
5年の経過期間も無事終えて、今は自転車を乗り回す日々を送っていらっしゃいます。自転車は健康増進に役に立つということで、西は糸島市(片道22㎞)、東は宗像市(35㎞)、南は久留米市(48㎞)までが、自転車での行動範囲とのこと。Kさんによれば、福岡は自転車で活動するには適した「フラットな街」というイメージが強くあるようですし、「半径5㎞内に、東京の山手線内の要素がすべてある」と話されています。
だからでしょうか、福岡全体で自転車を使われる方が多いようです。福岡市内にはいたるところに1日100円の駐輪場があるようで、福岡空港にも駐輪場があって、ここも1日100円。Kさんは、「柏に帰る時には、自転車で空港まで行って、ジェットスターに乗って、成田から柏に」至るというルートを使っていらっしゃるそうです。これがかなり時間の節約ができるようです。
高い“医療サービス”の水準
福岡市の不便なところは「区役所の出張所がないこと。その点では行政サービスに課題があると思う」とおっしゃっていますが、一方で病院のサービスは素晴らしいとの評価です。がんの治療や検査があったので、東京でも福岡でも何度も病院を利用していらっしゃるだけに、「東京で半日かかる通院が、福岡では1時間半で済む」と語る実体験は説得力を持っています。検査や治療というよりも、治療までの待ち時間や会計のための待ち時間が短いことが大きいようです。
がん治療のように、その後の倦怠感などを考慮すると、半日かかる通院は結局1日会社を休むことになるが、通院が1時間半なら半日で済むというわけです。医療サービスというのは、単に医者の数や病院における高度な治療といった医療そのものの水準だけではなく、その周辺のサービスも含めて医療サービスなんだとつくづく感じるエピソードでした。
転勤族が戻った福岡、まだ今後のことを決めかねている
Kさんは、福岡の大学を卒業してインテリアデザイナーとして大手デパートに就職、その後、サラリーマンとしての転勤人生を送ってきました。仕事内容や部署の変遷はともかく、それに伴って住んできた街は、東京都中野区(3年)→東京都江東区(13年)→名古屋市(2年半)→東京都江東区(2ヶ月)→ニューヨーク(3年)→横浜市港北ニュータウン(2年半)→名古屋市(4年)→横浜市港北ニュータウン(7年)と、本当に何度も転居をされ、13年前の55歳の時に柏市で家を買ったそうです。
その柏市の家には、現在も奥様とお嬢様がお住まい(息子さんは独立)です。Kさんが4年前に福岡市に単身移住した時には、11歳年下の奥様はまだ定年前だったこともあり、柏市を離れられなかったようです。ただ、あと2年で定年になるので、「その後のことを考える時期に来ている」と思っていらっしゃいます。ただ、「まだ決めかねている」ようです。移住によるネットワークの再構築を嫌がる奥様は多いと聞きますが、これまでの転勤経験からKさんの奥様はKさん曰く「ネットワーク作りが上手い」とのことで、福岡に来ることに懸念はないようです。その時には、今の福岡の賃貸アパートから、中古のマンションを買おうかと計画しているようですが、まだ具体化には至っていません。
今は楽しいのだけれども
今、Kさんは43年ぶりに福岡に戻ったわけですが、若干の「外者になってしまった感」があるようです。具体的ではないものの、どこかKさんには「福岡の人が保守的で、考えが狭いように感じる」と感じるときがあるようです。とはいえ、サラリーマン時代に培ったネットワークは退職とともに消えてしまい、「福岡の昔の仲間がいい相手になってくれている」とのこと。大学時代からのサークル活動もあって、チューリップや海援隊のメンバーとは今でも親しく、友人がやっている居酒屋に、年に何回か集まって語らっているとのこと。
インタビューを終えて
今回は、がん治療と移住という予想外のテーマに圧倒されて、時間内で予算や資金繰りのことは聞くことができませんでした。しかし、「高齢者向けのコミュニティにおける医療サービスとは何か」といった考え方を整理する良いチャンスになりました。