私の心情(76)―お金との向き合い方24-収入と資産形成をつなぐ3つの式

投資信託協会のご依頼で5月26日にオンラインセミナーを行いましたので、その内容を簡単にまとめて紹介します。

退職後の生活資金は現役時代の生活の影響を受ける

3つの式の1つ目です。資産形成しようと考えるときの目的はいろいろあります。教育資金とか、住宅ローンの頭金とか、退職後の生活資金とか。そうしたなかで最も大きな資金になりそうなのが、退職後の生活資金です。しかもかなり先のことを考える資産形成ですから、いったいいくら必要なのかという目標もなかなか定まり切らないものです。ただひとつはっきりしていることは、退職後の生活はいくら先の話といっても、今の現役生活の先にあるので、今の生活と全く分断されたものではないということです。現役世代の生活が退職後の生活にも影響を与えるということです。

例えば、現役世代には一生懸命働いて年収を上げようと考えます。年収が上がれば、当然生活パターンも変わるもので、いい家に住む、おいしいものを食べるといった日常が少しずつ変わっていきます。良くなっていく生活は、退職したからと言って簡単に捨てきれるものではありません。

現役時代、特に現役最後の生活水準が退職しても引き継がれることになりますから、退職後の生活を考えるときには退職直前の生活水準を示す「退職直前年収」が大きな意味を持ちます。もちろん、現役時代全く同じということはありません。年収が減ることになりますから、それだけでも税金や社会保険料は下がりますし、現役時代特有のコストも下がるでしょう。そうしたことを考慮したのが比率としての「目標代替率」です。

目標代替率は6-7割か?

海外では、これが簡易的な退職後の生活水準を考える方法としてよく知られています。2016年の米国会計検査院の報告では、全米でこの目標代替率(Target replacement rateとかIncome replacement rate)は、金融機関や学者などが600種類以上の報告しており、そのうち400以上が具体的な数値を公表しているとのこと。その数値で最も多かったのが70-85%で、意外高い水準でした。これは米国の場合、退職すると医療費が全額自費になるからではないかと思っています。現役時代は会社が医療保険に加入することで従業員の医療費負担を軽減します。しかし退職すれば、それがなくなるので、個人が医療費を全額負担するか、自分で保険に入って保険料を負担するかということになります。日本は国民皆保険制度があることから、その点から目標代替率は低くなるでしょう。それでも70%とか60%といった水準は必要になるでしょう。

目標代替率の水準はともかくとして、この式からわかることは、退職後の生活費は現役時代の年収に影響を受けるということ。それは退職後の生活資金の準備は、現役時代の年収が上がるほどに増やしていくことが必要だとわかります。

退職後の生活を支える3つの収入を現役時代から意識する

2つ目の式は退職後の生活資金は何で賄われるかを整理したものです。これはフィンウェル研究所が重要視し、活動範囲と考えているものです。

退職すると生活資金は大きく3つの柱で賄われることになります。公的年金を中心とした「年金収入」、退職したといってもまだ少し仕事をすることによる「勤労収入」、そして現役時代に作り上げてきた資金の取り崩しによる「資産収入」の3つです。

第1の式でお話した通り退職後の生活費は、現役時代の生活水準が高くなればなるほど、多く必要になります。ということは、この3つの退職後の収入も現役時代の生活水準、すなわち年収が上がれば増えるように仕掛けておくことが必要になります。

まず「年金収入」ですが、企業にお勤めの多くの方は厚生年金に加入されていれば、年収に連動するように制度設計がなされているので、特に心配する必要はありません。そうでない場合には、自分の意志で年収が増えれば年金への掛け金を増やす努力をするべきでしょう。

2つ目の「勤労収入」ですが、退職した後も無理をしない程度にできるだけ長く働くということが望まれるでしょう。そのためにも現役時代に自分の生涯使える資格やスキル、ネットワークといったものを作り上げておくことが必要です。ここ数年リカレント教育といった言葉が注目されるようになりましたが、どんな形であれ自身の能力を高める研鑽は、できるだけ現役時代から続けておくべきでしょう。特に年収が上がった分、自己研鑽のための「自己投資」も重要になってくるといえます。

最後の「資産収入」も現役時代の年収に連動するように仕組んでおくことをおすすめします。

定額積立投資よりも逓増する積立投資が有効

その具体的な方法が、次の3つ目の式です。

毎月定額の資金を資産形成に回す「定額積立投資」はよく知られるようになってきました。しかし、毎月1万円の積立投資を30歳から60歳までずっと続けるのは、「年収が増えることに合わせて資産形成を増やす」という考え方にはちょっとそぐわないものなってしまいます。年収が増えれば、その分資産形成にも資金を多く回すべきでしょう。それを考えるときに紹介しているのがこの3つ目の式です。資産形成に回す資金は、年収の一定率にすることで、年収が増えたらそれに合わせて資産形成の金額も増えていくようにするというものです。この比率を資産形成比率と呼んでいます。

国税庁の民間給与実態統計調査によると、50代後半の男性の平均年収は686万円強と発表されていますので、それに合わせるように、年収を30代で400万円、40代で500万円、50代で600万円と想定してみましょう。例えば、資産形成額を30代で月額4万円、40代で5万円、50代で6万円と、年代に合わせて1万円ずつ引き上げたとすると、年間の資産形成額は年収の12%、すなわち資産形成比率は12%となります。この毎月の金額を収益率3%の運用商品で積立投資をすると、30歳で資産0円でも60歳時点で計算上2800万円程度の資金が作りだせることになります。

「退職後の生活をカバーするための資金をどうやって作っていくか」を考えるときに、年収との関連で整理していくことが大切です。その時には、この3つの式の持っている意味を理解していただけるといいでしょう。