私の心情(68)―地方都市移住19-いくら資産があれば退職後の生活はできるか?

「老後2000万円問題」が巷で騒がしい時、冷ややかに「同じ資料には今の高齢者の平均金融資産は2500万円くらいあるって書いてあるから大丈夫だってことだよな」と指摘する向きがありました。金融審議会市場ワーキング・グループの報告書「高齢社会における資産形成・管理」で言及していた高齢者の平均純貯蓄額は2484万円でした。

ただ、この2000万円を算出した家計調査のデータも、純貯蓄額2484万円のデータも、あくまで平均値ですから、これで実際の状況を一律に議論することはできませんね。

平均保有資産は3825.6万円

そこで今回のアンケート調査結果から、現在3大都市に住んでいるまたは10年以内に3大都市から移住した60代2305人のなかで金融資産を保有していると回答した1825人を対象に「あなたの保有資産で退職後の生活はカバーできますか?」の設問に対する回答を分析します。退職後の生活をカバーするのにどれくらいの資産が必要なのかを、地方移住と絡めてみていこうというわけです。

まずは1825人の平均値ですが、平均保有金融資産は3825.6万円で、前述の家計調査よりは多めになっています。その金融資産で、退職後の生活をカバーできると回答した人は全体では71.9%に達していますから、アンケート回答者のかなり多くの方が「何とかなりそうだ」と思っているようです。

保有資産で退職後の生活がカバーできる比率は、移住した人のほうが10ポイントほど高い

ただ、この数値も地方都市移住とクロス分析を行ってみると、特徴が見えてきます。地方都市移住と「資産で退職後の生活は可能か」の回答をクロス分析すると、「移住を考えたことがない人」と「あきらめた人」のうち30%程度の方が「まったく足りない」としていますが、「移住を検討中の人」ではその比率は少し低くなり、さらに「移住した人」では20%程度に低下しています。「移住をした人」と「全く考えていない人」では10ポイント程度の差が出ていることがわかります。

前回のコラムでも言及しましたが、地方都市移住は生活費の削減が期待されることから、保有資産で生活が成り立つと考える人が多くなっても不思議ではありません。

移住をすると少ない資産でも退職後の生活をカバーできるようになる

そこで次にどれくらいの資産を保有していると「退職後の生活は何とかなる」と思っているのかを分析します。

移住に対する意向別に、退職後の生活を「十分カバーできる」、「何とかギリギリできる」、「まったく足りない」と判断した人の保有資産額の平均値と中央値のレンジを分析してみました。

「今保有している資産で退職後の生活を十分カバーできる」と判断している60代は、移住の意向にほとんど関係なく、平均で6000万円以上の資産を有していることがわかりました。しかし「何とかギリギリカバーできる」と考えている人の資産額平均には移住意向でばらつきが出ているようです。なかでも移住した人の平均値は2500万円台に、また中央値は1501-2000万円のレンジまで下がっており、移住によって少ない保有資産でも退職後の生活がカバーしやすくなっていることが窺えます。

この点からも移住が退職の生活にゆとりを持たせる可能性を示唆しています。