私の心情(45)―お金との向き合い方13-DC、引き出す時に急落したら
定年に伴う作業の一つに、確定拠出年金(DC)の受け取り方を決めることがあります。私は外資系運用会社に入社した2006年からDCに加入していますが、それ以降ずっと日本の小型株投資信託で運用してきました。定年まで10年以上ありましたから、「最もリスクの高いもの、すなわちリターンが高くなるはずのもの」を組み入れたわけです。
令和最初のスーパーGW明けに急落
既にお話した通り、私の誕生日は4月5日で、2019年4月末で定年となりました。言い換えると、令和の始まりとともに定年後の生活が始まったわけです。その時のゴールデン・ウィークは10連休で(定年の身にはあまり関係ありませんが)、スーパー・ゴールデン・ウィークと呼ばれました。
問題は、その長い休暇明けの相場です。メディアでは海外の金融市場は開いていて、日本だけが休場となっているこの休みの相場を気にするコメントが多くありました。何が起きるかわからないので、「一度、GW前に手仕舞っておくべきではないか」といった論調です。しかし、長期運用を考えるのであれば、そんな“一度手仕舞う”なんてことは、道理に合わないと思っていますから、必要ないと思っていました。
その連休中、確か5月5日だったと思いますが、トランプ大統領が突如、中国の輸入製品2000億ドル分に対する関税を10%から25%に引き上げる、と発表したのです。案の定、この10連休明けに日本の株価は急落しました。4月26日の日経平均の終値は2万2258円73銭、これが1か月後の5月24日には2万1117円22銭へと5.13%下落しました。
積立投資も引き出す時に急落では
株価急落にあたふたしました。DCでは、必然的に積立投資を行いますから、拠出中は価格の下落による積立コストの低下がメリットとなります。しかし、4月末で定年を迎え、5月以降は拠出ができず、ただ残高を見つめるだけでしたから「ちょうどここで急落かよ!」って思いましたね。なんとも切ないタイミングです。
「退職に向けて作り上げた資産が引き出す時になってリーマンショックみたいなことが起きたらどうするのか」といった想定を、これまでよく議論してきました。規模こそ小さいのですが、皮肉なことにその事態が起き、それに投資教育に従事してきた私自身があたふたしているわけですから、行動バイアスというのは恐ろしいものです。
私も嵌ったアンカリング効果の罠
行動経済学では「人は感情に左右されて非合理的な行動をとりがち」と考えます。「選択肢が多すぎると却って選べない」とか、「同じ金額だと利得よりも損失の方が心理的に大きな影響を与える」といったことが、よく指摘されます。
ここでの例では、GW前の株価を基準にして急落しているから、あたふたしていることが行動バイアスです。これは「参照点」と呼ばれる水準を基準にしてモノを考えてしまう「アンカリング効果」でしょうか。投資をしていると最も高い株価とか、直前の株価といったものを参照点にしがちです。日経平均でいえば、GW前の水準から5%以上下落しているし、その前の高値2018年10月2日終値2万4270円62銭からすれば、13.0%も下落していました。しかし、拠出総額を参照点にすれば、2019年5月24日の時価でも拠出総額を44.0%上回っていましたから、決して悪い数字はありません。
ちなみに、昨日(2020年11月28日)時点では拠出総額を68.2%上回っています。さらに「1年持ち続けていて、ラッキー」ってところでしょうか。「あれ、運用指図者なの?」って思う方は制度をよくご存じの方。次回のコラムでは、なぜ今でも運用指図者かをお話します。