私の心情(41)―資産活用アドバイス17-Pension WiseとIFA
私の心情(41)―資産活用アドバイス17-Pension WiseとIFA
前回は企業年金加入者拡大の施策としての確定拠出年金(DC)の拡充とIFAの活躍の場を紹介しましたが、実際、確定拠出年金は資産形成の時には、アドバイスといってもなかなかな大きな金額のビジネスにはなりにくいものです。しかし、その出口戦略となると、大きな資産を抱えた退職者がターゲットになりますから、IFAにとっては全く違った意味を持つことになります。ここでも英国の施策は参考になります。
企業年金の引出規制緩和とPension Wise
英国では、2015年に、DC資産の引き出しに関する複雑だったルールが緩和され、①55歳になればいつでも引き出せるようになり、②従来通り口座残高の25%相当額は引き出し時に所得非課税とし、③従来あった細かい引き出し条件に関しては引き出した額をその年の所得に換算する、という大きな柱に簡素化されました。
また、それまでアニュイティ(終身の所得補償保険)だけに認められていた課税の繰り延べ特権を、他の引出型の金融商品にも認めることも行われました。これによって、DCの資産を引き出して、アニュイティを含む引出型の金融商品を購入する際には、課税はその時点から繰り延べられ、金融商品から資金を引き出した際に課税されることになりました。制度としてはシンプルになって、資産を引きだす時点での選択肢が増え、加入者の意思をより反映しやすくなったといえます。
しかし、その分、本人の意思決定が求められるようになりましたから、ここでもIFAのアドバイスが従来以上に必要とされるようになったといっていいでしょう。
ところで、この自由化に合わせて退職世代への投資ガイダンスの制度もスタートしました。DC資産を引き出す際に、加入者は無償で政府が投資ガイダンスを行うPension Wiseと呼ばれる制度が、2015年からスタートしました。立ち上がりの当初は財務省を中心に複数の機関で業務を分担していたのですが、2019年からは金融教育の専門組織と合体して、The Money and Pensions Serviceと称する専門の組織が労働年金局の外郭団体として出来上がりました。従来あったPension Wise、The Pensions Advisory Service、 the Money Advice Serviceのそれぞれの組織の業務は、この1つのブランドのもとで継続して行われ、より広い視点で金融教育を担う組織となっています。ちなみに、2019年の予算では年間20万人以上の退職者にガイダンスを提供する計画となっていました。
年金資産をもった退職世代がアドバイスを求める
IFAにとってDC資産をもって退職する高齢者はアドバイスの重要な潜在顧客といえます。しかも、英国ではガイダンスは、個別の事情を考慮しない「選択肢の提供」までと定義されています。そのため、無料の投資ガイダンスでは、最終的な資産運用の意思決定にまで消費者に寄り添ってくれることはありません。そのため、さらに一歩進んで自分の場合はどうすればいいのかを知るためには、アドバイザーに有料でアドバイスを受ける必要が出てきます。前述のとおり、年間20万人以上のDC資産保有者が政府による無償のガイダンスを受けているわけですから、こうした人たちがIFAに取っての新しい潜在顧客層といってもいいでしょう。
日本で何ができるか考えてみよう
このコラムで何度も繰り返していることですが、「こうした英国の事例は、日本では制度がないのでできない」とみるのではなく、それを参考にして日本にある制度をうまく活用していく方法を見つけ出していきたいところです。大企業が行っている退職者向けの研修などを、中小企業でも「退職時の資産活用」により時間をかけて行っていくことなど、Pension Wiseに似せた活動も可能になります。