私の心情(279)―退職後のUターン、その意味は?「60代6000人の声」アンケートの追加分析

「60代6000人の声」アンケートの結果を報告する会を何度か開催しましたが、その際に追加依頼をいただいていた分析結果を報告させていただきます。今回は、移住を前提にした生活全般の満足度の深掘りです。

具体的にいただいた質問は、

  • 持ち家か賃貸かは都市の規模によって影響度が違っているのだろうか、
  • 実家のある都市に移住する場合、人間関係の満足度は高まるだろうか、
  • 自身が住んでいる都市の課題として「長く生活するには退屈な都市だ」という評価が都市の推奨度に影響するとしていたが、具体的にどの都市が「退屈だ」という評価だったのか、

の3点です。

都市の規模別に重回帰分析を実施

1つ目の質問への回答のために都市の規模別に、生活全般の満足度を被説明変数にして、18項目の説明変数を使った重回帰分析を行いました。その結果は表のとおりですが、真ん中あたりにある居住状況(持ち家=1でダミー化)の影響具合が都市の規模によって違っていることが分かりました。ちなみに、対象者は、3大都市居住者が2127人、100万人以上の道府県庁所在都市居住者が2159人、30-100万人未満の道府県庁所在都市居住者が2175人です。

100万人以上都市と3大都市では持ち家が生活全般の満足度を高めている

3大都市と100万人以上の都市では、偏回帰係数の絶対値が大きく、符号はプラスで、有意水準1%未満でした。すなわち、100万人以上都市と3大都市では明らかに持ち家であることが生活全般の満足度にプラスに寄与していることが示されたわけです。

家賃負担が高い大都市においては、その負担が少ない持ち家の意味は大きく、生活全般の満足度に影響していることが分かります。

30-100万人都市では賃貸/持ち家は満足度にあまり影響ない

一方、30-100万人都市では、係数の値が小さく有意水準も高くなっていますから、大都市ほどに持ち家であることと、生活全般への満足度には関連がなさそうです。家賃負担が相対的に小さい地方都市では、賃貸でも持ち家でもそれほど生活全般の満足度に影響しないということではないかと思われます。

都会の生活に疲れたので実家にUターンしたい?

2つ目の質問は、実家にUターンした人の人間関係の満足度をチェックするものでした。まずは実家に移住した143人と、現在3大都市に居住していて実家への移住を検討している59人の5つの満足度の平均値を算出してみました。

興味深いことに、ほとんどの満足度の項目で全体との差異は大きくなかったのですが、「実家に移住を検討している人」の生活全般の満足だけが、かなり低い水準となっていました。「3大都市での生活全般の満足度が低いので、実家への移住を検討している」ということではないかと推測できますが、母数が少ないことから、この因果関係を明示することは難しいかもしれません。

移住者、移住検討者の生活全般の満足度に影響するもの

ただ、「実家のある都市に移住する場合、人間関係の満足度は高まるだろうか」という視点は、満足度の平均点だけではなく、影響度がどう変わるかも重要だと考えます。その点からも分析をしてみました。実家のある都市にUターンした人、または検討している人は、生活全般の満足度に対する18項目の変数の重回帰分析で、どんな変化が出るかをみることにしました。

人間関係の満足度と健康水準の満足度が影響

思った以上に大きな変化が出ていました。まず実家のある都市に移住した人、検討している人では、R2乗の値がかなり高くなり、この関係式の当てはまり具合がかなり高くなることが分かりました。しかし2つともに変数の説明力が高い変数は極めて少ない数でした。1%未満の有意水準で明確な影響があるといえるのは、実家のある都市に移住した人の場合、人間関係の満足度と資産水準の満足度の2変数だけで、実家のある都市に移住を検討している人の場合には健康状態の満足度だけでした。

しかも全回答者を対象にした同様の分析結果よりも、それぞれの偏回帰係数が高くなっているのが特徴です。すなわちUターン移住者の場合、人間関係の満足度が高いほど生活全般の満足度を高めるように影響しており、その影響度が特に大きいといえます。

移住検討者、人間関係の満足度が低いほど生活全般の満足度が高い!?

また実家のある都市に移住しようと検討している人の場合、健康状態の満足度が高い人ことが生活全般の満足度に大きく影響している(係数が0.558とかなり高い)のが特徴です。逆にそれ以外の変数が全回答者の場合に比べて、影響が明示されなかったことが驚きです。

なお人間関係の満足度の係数の符号がマイナスなのは気になります。人間関係の満足度の低い人が実家のある都市への移住を検討していることで生活全般の満足度が高まっているとしたら、苦しい胸の内を語っているように感じます。

退職後に生活する場所としての推奨が高いのに「退屈」な街

3つ目は、退職後に生活するのに退屈な都市はどこか、という質問です。人口30-100万人未満都市の推奨度を重回帰分析した折に、「退職後の居住地としての課題として、『長く生活すると退屈なところ』が大きく影響している」(偏回帰係数-0.8184でP値は1%未満)ことを特徴として挙げました。

そこで具体的に「退屈な生活」を挙げた人の人数を、その都市の居住者数に対する比率で順位付けしてみました。結果は、高い方から大分市16.1%、富山市14.5%、長崎市13.8%、前橋市13.0%、高松市12.7%、松山市12.1%の順となりました。

意外なことに、これらの都市の多くは、退職後に生活する場所としての推奨度で高い平均点を得ている都市でした。推奨度の平均値(0から10までの11段階評価)でみると、松山市が6.59点で全34都市のトップ、富山市は6.38点で3位、高松市は6.46点で4位、大分市は6.38点で6位です。推奨度の平均値はいずれもかなりの上位にもかかわらず、「退屈なところ」という評価もあるということは、その評価にばらつきが大きいということです。

退職後の移住先を検討するには、やはり事前に自分の目で見ておくことが大切になりますね。

なお、追加の分析の依頼があればいつでもご連絡ください。もちろんすぐにできるかどうかわかりませんが、ご質問は次の分析に大いに役立ちますので。