私の心情(277)―資産活用アドバイス125 60代アンケート、満足度に影響するものは?

「60代6000人の声」アンケートの分析第4弾です。一連のレポートの最後は、5つの満足度、資産寿命の自己評価、70代の生活観、自分が住んでいる都市の推奨度をそれぞれ10項目以上の変数を用いて重回帰分析を行い、その影響する要因を分析してみました。数字だけで出てくる結果とはいえ、思わぬ影響も見つかりました。グラフに出てくる数値を追いながら確認いただけると幸いです。

なお、資料の全体像は、第1弾のブログ「60代の満足度と70代以降に向けた苦悩」、第2弾のブログ「60代、何のために資産運用をするのか」、第3弾のブログ「60代の都市生活者の4分の3が持ち家だった」並びに改定・追加を行った3つの一次分析のグラフ集も併せてご覧ください。

5つの満足度に共通する変数は年齢、配偶者、年収

下の表は60代の5つの満足度を、表に掲げる14項目の変数を使って重回帰分析をした結果を示しています。R2乗の数値は1に近づくほどその関係式の当てはまり具合が高いことを示していますので、生活全般の満足度と資産水準の満足度が他の満足度の分析に比べて当てはまりがいいことが分かります。お金に関する設問が多いこともあり、当該アンケート持つ特性となっています。

5つの満足度に共通して影響している変数(P値が有意水準1%未満)は、以下の4つで、それぞれに①年齢が高いほど、②配偶者がいること、③世帯年収が高いほど、④70代の生活イメージが明るいほど、5つの満足度が高いことが分かりました。これらが共通影響変数ということになります。

親・子どもとの同居は男性の満足度を下げる

一方で、個別の満足度に影響している変数としては、生活全般の満足度では、親や子どもと同居していることが満足度を下げる方向に影響していることが分かりました。配偶者がいることはプラスで、親や子どもの同居がマイナスに影響するというわけです。ちなみに、男性の方が女性よりも親や子どもの同居がマイナスに影響する度合いが高く(偏回帰係数が大きい)なっています。

お金に対する近視眼的でない人(1年後の11万円よりも今の10万円を受け取るという考えに同意しない人)ほど、生活全般、資産水準の満足度が高くなっています。

また資産額は、健康水準、仕事やりがい、人間関係には有意に影響していませんし、年金受給の有無は、生活全般、資産水準ともに影響がありませんでした。

70代以降の生活のイメージには多様な変数が影響

70代以降の生活イメージを聞く設問では、「今より悪くなる」と考えている人に影響を与えている変数をみています。表で偏回帰係数がプラスになる変数は「悪くなる」、マイナスになる変数は「良くなる」ように影響していることになります。

全体的には、当てはまりが良くない関係式であるうえに、有意に影響している変数が少なく、資産関連の4つの変数と、健康状態の満足度と居住状況の3種類になりました。資産関連と健康状態の満足度は高いほど70代以降の生活イメージを良くしている関係にあります。しかし、持ち家の人の70代以降の生活イメージが賃貸の人よりも悪くなっているのは興味深い結果となりました。

資産寿命の延伸は多様な変数が影響

次は資産寿命の自己評価です。保有している資産で「生活は十分カバーできる」(16.6%)と「何とかギリギリ足りると思う」(51.5%)と回答した人に、そう思わせている要因を探るために、重回帰分析を行いました。なお、「今の資産で生活をカバーできない」と思う理由を分析していますので、係数の符号はマイナスが「今の資産でカバーできる」と思う方向に働いていることを示しています。

関係式の当てはまり具合は相対的に高いうえに、影響を与えている変数が 11変数と 多いことが特徴です。とは言え、偏回帰係数の大きい変数は、資産水準の満足度と70代以降の生活イメージの2つだけに留まりました。前述のとおり70代以降の生活イメージは資産関連変数の影響を受けていますので、資産寿命に関しても大きな影響は資産関連の変数だといえそうです。

1人の方が資産寿命は延伸できる?!

配偶者の存在は多くの満足度を引き上げる方向に働いていますが、資産寿命に対する考え方では配偶者の存在は明確な影響が検出できませんでした。また子どもや親の同居はマイナスに影響しています。そのほか、賃貸派はマイナスですし、男性の方が悲観的といった特徴も出ています。

60代にとって生活には医療と大都市へのアクセスが重要

アンケートでは、自身が住んでいる都市を「退職後の生活場所として推奨するか」という推奨度を11段階で聞いています。その推奨度を決める要因になった良い点と課題を変数にして、推奨度を被説明変数とした重回帰分析を都市の規模別に行いました。関係式の当てはまり具合は、都市規模別の3つの分析ともにあまり高くありませんでしたが、影響する変数には都市の規模別に特徴が出ています。

都市の規模に関係なく推奨度を引き上げる方向に影響を与えている共通変数は、医療体制と大都市へのアクセスでした。前者は高齢になるほど気にかかる点ですし、後者は依然アクティブに活動する世代であるが故の渇望ででもあることが窺われます。

都市の規模別に特徴となる影響変数としては、食事、家賃・住居費、気候、環境、公共サービス、交通の便です。具体的には、規模の小さい都市は食事がおいしいこと、家賃・住居費が安いこと、気候や天候の良さが推奨度を高める方向に働いており、規模の大きい都市は、公共サービスと交通の便が原動力になっています。

「退屈な生活」回避が鍵

なお、30万人以上都市だけに強く影響したのは「退屈な生活」です。しかも係数が大きいこともあり、最も大きな改善余地なのかもしれません。