私の心情(243)―地方都市移住60―夫婦で楽しむ札幌

ご夫婦でインタビューに

関東、東日本が梅雨の最中にも拘わらず35℃を上回る酷暑が続いている7月上旬、23℃のここ札幌でHさんご夫婦に札幌への移住に関してインタビューをさせていただきました。

奥様同席のインタビューは、かなり久ぶりで、コロナ空けの最近では初めてです。やはり移住のお話はご夫婦で伺うのが本当に良いなと改めて思いました。

Hさんご夫婦は66歳。高校の同級生とのこと。高校卒業後、ご主人は京都の大学に進学され、理系で修士課程まで修了されてエンジニアの道に、奥様は札幌の大学に進学されて教育の道に進まれました。それが同窓会で再会されて、30歳の時に結婚。1988年、バブルピークの直前でした。

会社から住宅ローンを低利で借りられるメリット

新婚生活は会社の社宅でスタートしましたが、5年後の1993年、横須賀に3300万円で新築マンションを購入されます。そこから東京都内のマンション、一戸建てと買い替えをされますが、93年頃の土地の価格はピークよりも下がっていたとはいえ、下落を始めたばかりの頃です。その後、マンション価格は下落を続けます。横須賀のマンションを売却して都内のマンションに引っ越したのが2年後の95年。その時の売却額は購入価格より2割程度安い2600万円、買い替えた物件は3400万円。さらに隣接した地域の一戸建てを4500万円で購入し、転居したのが5年後の2000年です。

Hさんが勤めていた会社はエンジニアリング大手で住宅購入のための低利ローンを活用できたこともあって、買い替えのたびに損失は出ているものの、何とかその都度やりくりできてきました。1割くらいの頭金を用意していたこともあって、それほど住宅ローンが生活の負担にはならなかったようです。

東京と札幌の2拠点生活は7年強に及ぶ

そして2023年に退職とともに札幌に引っ越されています。これで都合5回目の引っ越し、購入物件は4件目となります。Hさんと同年代の自分を振り返ってみても、これくらいの転居はあり得るなと思いながらも、最後の札幌への移住プロセスはちょっと注目しました。

札幌のマンションを3400万円で購入したのが2016年末、そして完全に引っ越されたのは2023年5月。それまでの間は、いわゆる2拠点生活をされていました。もともとご夫婦ともに北海道のご出身ですから、退職したら札幌に移住したいと思われることはそれほど不思議ではありません。それに奥様の母親がご健在で、月に1回ほど東京から札幌にきて、面倒を見ることもできたようです。それに昨今の東京の酷暑を考えると本当に札幌は涼しい生活ができます。

購入のタイミングは、ちょうど役職定年の時でした。エンジニアリング会社を退職して子会社の役員になる時でしたから、その退職金と親からの相続金も加えて一戸建ての残りのローンを返済できて、次のことを考える時期だったのではないでしょうか。ちなみに、札幌のマンションは、植物園の近くで本当に便利なところにあります。購入時には民間の住宅ローンを組んでいましたが、残っていた退職金の一部と子会社の役員慰労金、それに相続の残りも使って、移住後の24年1月に完済しています。

やはり仕事はなかなか見つからない

完全移住後の札幌での生活は仕事を探すことからですが、それはなかなか大変だったようです。東京にいるうちから、札幌のハローワークには職探しを申請していたのですが、なかなか見つかりません。地方都市移住の”あるある”なんですが、東京でのキャリアが高すぎて、「地元ではオーバースペックなんです」といって断られ続けました。

札幌に来てから民間の転職サイト等で探したところ意外に早く見つかり、マンションの管理業務に就くことができました。ただ、同じころ紹介をお願いしていた地元の金融機関の知り合いからも、地元企業の経営アドバイザーの仕事を紹介されたことから、そちらに転職することに。しかし、そのビジネスに不安を感じて3日で辞める決断をしたそうです。その後、現在の地元スーパーの品出しの仕事が見つかり、何とか仕事を得ることができましたが、なかなかの紆余曲折です。

仕事よりも生活を楽しむ

Hさんは、午前中を中心に5時間くらい仕事をして、奥様も週に3-4日、半日ずつ地元の就労支援の仕事をされています。おふたりとも、勤労収入に多くを望んでいるわけではなく、仕事も含めた今の生活を楽しむことが大切とのこと。Hさんは合唱にスキーに、そして週末には最近会員権を買ったゴルフに行くのが楽しみとのこと。奥様も、先週は「ベトナムに行ってきたの」と生活を楽しんでいらっしゃいます。

年金収入でしっかりとした生活基盤

収入面では年金収入が柱になります。厚生年金は1年受給を遅らせて、今年から受け取る予定です。ご主人の年金額は月額23万円、奥様は働いていた時期もあったものの第3号被保険者の期間が長く月額7万円程度とのこと。それでも2人で30万円の年金額になり、さらに会社の確定拠出年金を期間10年の年金受け取りにしていることから、現在月額14万円の収入があります。働いて得られる2人の収入合計は12万円程度、これに都内の一戸建てを賃貸に出していますので、そこからの家賃も毎月9万円入ってきます。合計は月額65万円です!

車関連費用が負担に

一方、生活費の方は「正直なところまだよくわからない」とのことでした。これまで要らなかった駐車場代2.1万円とガソリン代の高さ(東京の170円に対して札幌は175円)などは、明らかに出費増の要因です。ただ、昨年引っ越ししたあと、夏以降にお嬢様の結婚が決まり、大きな出費が相次いだことから、通常の生活費がどれくらいかまだ実感がないとのことでした。

一戸建ての今後

ちょっとここでお嬢様のご結婚と都内の一戸建てのその後を説明しておきたいと思います。というのもそれが保有資産にも影響するからです。お嬢様のご結婚が急に進んだのが、昨年の札幌へ引っ越される時期でした。ご結婚される相手の方と早くに一緒に住みたいとの希望があり、秋には入籍し、そのままHさんご夫婦が住んでいらっしゃった一戸建てで新婚生活をスタートされることになりました。実は、先ほどの収入のうち家賃収入9万円は、お嬢様夫婦がその支払い主です。これは大切なことです。

個人的には、3階建ての一戸建ては新婚夫婦にはちょっと広すぎるのではないか思ったのですが、義理の息子さんも新しい一戸建てを探していらっしゃるようです。そのうちこの物件は、転貸か売却ということになるでしょう。これはHさんご夫婦にとっては大きな資産になっています。

3000万円の金融資産と土地

それ以外に金融資産の状況も伺いました。ご主人の資産は総額で3000万円ほどです。内訳は、預金が1700万円、株式がNISA口座分も含めて700万円、そして貯蓄型の保険が600万円強。Hさんは特に心配なさっていない様子ですが、正直なところ、私としては大手のエンジニアリング会社を退職され、その後の子会社での活躍などを考えると、もう少し金融資産が多いのかと思いました。何しろ退職金だけでも3400万円くらいはあったとのことでしたので。

ただ、よく考えると、今住んでいる札幌のマンションも都内の一戸建ても住宅ローンを完済していますから、その負担はありません。さらにお嬢様夫婦が次の生活拠点を探し出されれば、一戸建てはいつでも売却できる資産です。このところ東京の地価は上昇傾向が続いていますし、土地付きですからそれなりの売却額が見込めるはずです。この点は大きな強みです。

おひとり様後も見据える

今後の生活ですが、Hさんは今の合唱、スキー、ゴルフは続けたいとのことですが、せっかくなので北海道内の旅行に行きたいとのこと。定番でよく出かけるのが岩内の旅館で、「こんなにおいしい料理は食べたことがないです」と奥様の一言は、つい自分も行ってみたいと思ってしまいます。

その奥さまは、ハワイなど海外旅行は続けたいとのことですが、ちょっと控えめに「主人が亡くなった後のことですけど」と前置きして、札幌の今のマンションは便利だし、夏の暑さもないし、自然災害も少ないし、冬の雪もほとんど苦にならないけど、「本当はガーデニングができると良いなと思っています」とのこと。

ご主人はここを終の棲家だと思っていらっしゃるようですが、奥様にはまだまだ先を見据えていらっしゃるようです。ただ一つだけ、「もう東京に戻る気は全くありません」との言葉はおふたりとも同じでした。

インタビューを終えて

やはり奥様同席のインタビューは、新しい発見が多いと改めて思いました。特に、ご主人が亡くなった後のことをどう考えていらっしゃるかは、男性同士のインタビューではなかなか出てこないところです。インタビューする側も夫婦で行く意味がここにもあります。

ところで金融資産3000万円だと、奥様がおひとりになられた後の生活が少し心配になりましたが、都内の一戸建てがある上に、奥さま自身も資産運用をされていることをインタビュー後に教えていただきました(資産額は内緒とのこと)。それを考慮すれば問題ないように思えますが、ポイントはここ10年の生活パターンです。

ここ10年ほどの収入が、月額65万円とかなり手厚いものです。この先、勤労収入、確定拠出年金、賃貸収入が無くなる時期には、収入は半減しますから、今の生活パターンを維持するためには、資産の取り崩しが大きくなりかねません。生活パターンのメリハリと、保有する金融資産の取り崩し計画、当面の資産運用計画、不動産の現金化時期など、その時に向けて今から計画を立て、準備をしておく必要性は大きいように感じました。