私の心情(238)―地方都市移住58―移住者が増えている小田原探索

ご承知の方も多いと思いますが、フィンウェル研究所では地方都市への移住も、退職後のお金との向き合い方の大事な施策だと考えています。退職後の生活の等式は「生活費=勤労収入+年金収入+資産収入」と想定し、60代6000人のアンケートでは、生活費削減策の視点から、継続して移住に関する設問を取り入れています。

違った形の地方都市移住取材記事も

アンケート回答者のなかから、毎年、地方都市に移住した人のインタビューを行っていて、既に30人前後のインタビュー記事をこのブログに収載しています。ただ、インタビューだけではなく実際にその土地を訪ねて地元の不動産屋さんに聞くなど、少し違った切り口のブログも紹介していこうと思っています。今回はその一環として小田原市を訪問しました。

なお、今年も地方都市移住者のインタビューを計画していますが、アポイントがいただけたのは2名だけでした。ちょっと少なかったので皆様のなかで、60代で最近、3大都市圏から地方都市に移住された方をご存じの方がいらっしゃれば是非ご紹介ください。

6月初めに熱海でゼミ合宿

実は、6月6-7日と小田原、熱海に1泊2日で出かけました。目的のひとつは、43年ぶりに大学のゼミテンで「ゼミ合宿」をすることでした。単に、熱海の居酒屋で同期会をするというだけではありますが、全員65歳前後で、同じ悩みを抱えています。なかには2拠点生活や海外との行き来を頻繁にしている仲間、ボランティアに没頭している仲間などもいて、彼らの近況は大いに参考になりました。

ただ、一番の目的はこれに合わせて小田原市を地方都市移住の目線で見学してくることでした。2024年2月に認定NPO法人ふるさと回帰支援センターが公表した2023年の「移住希望地ランキング」によると、第1位は静岡県、第2位が街群馬県、第3位が栃木県とのこと。小田原市は神奈川県ですから、このランキングでは第12位で、隣の熱海市は静岡県です。

通勤圏の小田原

8時31分新宿発の小田急線ロマンスカー「はこね5号」で、小田原に向け出発。1号車の4D(窓際)の席を予約したので外の景色を横からもまた正面からも見ることができました。ちなみに私より前の3列は海外からの観光客の方のようでした。そもそも正面の景色の見える席に乗ったのは久ぶりだったので、折々の景色を堪能しながら原稿の執筆もしていたので、あっという間に小田原駅でした。9時55着ですから1時間20分ほどの旅行です。ちなみに新幹線なら33分で到着します。

仕事ができる場所はあるか

駅に隣接する「ミナカ小田原」という商業施設は食欲をそそるお店が集まっていますが、2階にOdawara Innovation Labという施設をみつけました。特に予備知識もなく、「小田原に移住したときに仕事のできるスペース」かと思って、飛び込みでお話を伺いました。地元企業とのコラボを主要目的として、公民連携、若本・女性活躍の拠点として開設されているとのことで、私の思い込みとはちょっと違っていました。

そこで当方の趣旨を説明して、どこかそうした活動をしている施設はないかと窺ったところ、ARUYO ODAWARAを紹介いただきました。優しい! これが紹介の輪のスタートでした。

コワーキングスペース

ARUYO ODAWARAは、駅から歩いて5分くらいです。オープンして2年。個人メンバーになると月額13,800円の利用料、法人利用なら月額38,000円、そして1日利用のドロップインなら1,500円/日で可能とのこと。また起業支援プログラムに参加すると、7ヶ月間無償で利用できる拠点支援も受けられるとのことで、現在5社が会社の登記を行っています。また、もともとネットワークのある人がスタート時点から多かったこともあって、このコミュニティのなかで新しいサービス (小田原密着の求人サイト) の開発も実現しているとのこと。

駅の近くにこうした施設が提供されていることは、私のような活動を退職後も続けようという人にはうれしいところです。

そんなにシニア移住者がいるんだ!

次は、ARUYO ODAWARAから紹介を受けて、地元の不動産屋さんにも取材しました。

その不動産屋さん(名前を出さないことを条件で取材しました)では、なんとお客さんの7-8割が移住希望者で、その3、4割がシニア世代とのこと。ちょっと驚きました。小田原は始発駅で、交通の便の良さは周知のとおりです。また住むとすると、駅からの東側は海の近くまでほぼ平坦なので、車のいらない生活が可能になります。

とはいえ、最近は災害、特に津波への懸念が指摘されていることも確かで、この点が移住検討者には心配されるところ。小田原駅で海抜15メートルくらいあり、国道1号線は8メートルほどの堤防の上を走っていて、これが津波の防波堤になっていることはよく知られているところです。ドラマや映画の撮影に使われているこの通路は、国道の下を通って海岸に抜けられるようになっています。

値上がりしたといっても東京から移住するなら安い!

一番大切な家賃も聞いてみました。最も多くの施設や住居が集まる駅の東側のエリアで、築15‐20年のマンションなら3000-5000万円くらい。一番高いのが、3LDK で7800万円とのこと。担当者によると「最近は値上がりして、コロナ前と比べると1000万円くらい高くなっている」とのことですが、それでも安いと思います。東京のマンションを売って、小田原に引っ越せば差額は数千万円くらいにはなるでしょう。

耐震設計基準が改定される前の70年代に作られたところであれば1000万円台もあるとのこと。さすがにちょっと古いので気になったのですが、「どうせ終の住処なので耐震設計は無視、1₋200万円でリノベして住む」という人もいるそうです。

北条氏の目線

ところで、小田原で趣味を探すとすると何でしょうか。城を巡るのが最近ちょっと楽しくなってきた私には、小田原合戦(1589年)での小田原城と石垣城は気になっているところでした。

北条氏政、氏直親子が陣取った小田原城は小田原駅から本当に近くにあり、天守閣まで登る(入館料は天守閣だけで510円)と、小田原市内だけでなく、三浦半島までよく見えます。

有名な豊臣秀吉が一夜で作った(ように見せかけた)石垣山城がどれくらい近くに見合えるのかが気になるところです。今でもほんとによく見えます。あそこに突然城ができたらやっぱり驚愕すると思います。この近さで敵対する城が突然出来上がるとすれば単に驚くだけでなく、相手の財力、実現する力を高く評価せざるを得なかったと思います。

豊臣氏の目線

次は石垣山城の豊臣軍の目線では小田原城はどんなふうに見えたのでしょうか。小田原城から石垣山まではなかなか良い交通網がありません。バスはあるとの事ですが本数が少ないようです。歩くのはとても無理なので、私はタクシーで行きました(片道2200円くらい)。

石垣山に登ってわかったことの1つは、この山は登るのが大変だということ。逆にいえば、下りで攻める方がかなり優位だということでしょうか。小田原城の天守閣から見ると石垣山は確かに同じ位の目線には見えるのですが、山の麓から登っていこうとするとこれは大変な上り坂です。

石垣山城から小田原城を見ると、小田原城があまり大きく見えません(さてどこに小田原城があるかわかりますか?)。さらに城下の全体像も非常によく見えるようになっていますから、攻めかかるタイミングだとか、先方の状況はほんとに手を取るようにわかったのではないでしょうか。この地の利の差は北条側を諦めさせる、ほんとに大きな要素になったのだろうと納得しました。

最後は、城の話になってしまいましたが、こうした楽しみも退職後の生活には欠かせないものではないかと思います。