私の心情(235)―資産活用アドバイス98―資産活用期になったら資産のリスクをどう下げるか?
最近セミナーなどで、「資産形成から資産活用にステージが変わったら、運用のポートフォリオはどう変えたら良いでしょうか」という質問をよくいただきます。ご存じの方には初歩的な話になるかもしれませんが、ちょっと整理してみようと思い立ちましたので、今回のブログで紹介します。
リスクを下げて引き出しを安定させる
現役時代の資産形成期から、退職して「勤労収入<生活費」の時代になれば、資産の取り崩しを考える必要が出てきます。その時にそれまでのポートフォリオはどうすればいいのかというのが、知りたい点ということになりますが、原則はリスクを落とすことだと思っています。なぜ、リスクを落とす必要があるかといえば、運用期間が徐々に短くなることに加え、定率引き出しを考える際に、運用資産のボラティリティが引出額の変動につながるからです。
参考までにこれまでのブログをご覧ください。
私の心情223:アドバイスの付加価値-取り崩し方法の洗練化による資産の保全効果
現役時代のハイリスク・ハイリターン積立投資
リスクをコントロールするにはいろいろなアイデアがあります。
例えば、保有資産が3000万円で、そのうち1000万円がこれまで資産形成してきた有価証券のポートフォリオだとします。その1000万円は株式投資信託の積立投資で作り上げてきたとすると、債券などリスクの少ない投資対象に配分し直してポートフォリオのリスクを下げるべきではないかというのが、先ほどの質問の問題意識だと思います。
一般に金融資産クラス毎のリスク(収益率のばらつきの大きさ)は、高い順に海外株式、国内株式、海外債券、国内債券、預金と言われています。このリスクの高さに合わせてリターンも高くなるのが一般的です。資産形成期では、積立投資を20年、30年と長期で行うことからリスクよりもリターンを優先することが可能になります。そのため海外株式や国内株式を組み入れることが多くなると思います。私も資産形成期の有価証券部分は、全て株式投資信託でした。そこから退職後にリスクを下げるために、債券のウエイトを高めるといった方法を考えるのは大切な発想です。
ポートフォリオを多様化すると後で困るかも
ただ、あまり分散投資を意識して、多くの資産クラス=多くの投資信託を使うのは、加齢に伴って徐々に取り崩す時期に入っていくことを考えると、得策ではない場合が出てきます。例えば取り崩しの際に、「どの投資信託から売却すればいいのか迷う」といったことになりかねません。
そこで他の方法も検討しておくべきだと思います。
バランス型投資信託の検討
正直なところ現役時代にはほとんど見向きもしませんでしたが、リスクを軽減する方法として、多様な資産クラスに投資をするバランス型投資信託を活用する余地は多くなると思います。少ない数の投資信託に集約できれば、生活費に充てるためにその投資信託を部分売却することが相対的に簡単になります。
さらに残った資産のリバランスの作業も不要になります。ターゲット・デート・ファンドであれば、ここに加齢に合わせてポートフォリオのリスク性資産比率を自動的に引き下げるといったリ・アロケーションも可能になります。米国では、退職後の運用資産としてターゲット・デート・ファンドの活用も多くみられます。
乗り替えには注意が必要
ただ退職にともなって複数の株式投資信託から1つのバランス型投資信託に乗り換えることになりますから、手数料や売却益が出ていれば(当然出ていなければなりませんが)税金を払うなどの課題が残ります。
例えば、先ほどの1000万円の投資信託を他の投資信託に乗り替えようとするときに、投資元本が400万円で、投資収益が600万円だったとします。1000万円を一度売却すると、その際には投資収益600万円に税率20.315%を掛けて算出した121万8900円が税金としてかかります。再投資する金額は878万1100円となりますから、かなり目減りしている感じを受けることになります。もちろん、そこからの資産運用では、投資元本が400万円ではなく878万1100円になりますから、その後の売却益は小さく計算され、将来の課税額が小さくなるメリットがあります。ただ、投資元本が小さくなることは、それだけでも投資効率を下げてしまいますから、デメリットも大きいものです。
確定拠出年金の有用性と手間
だからこそ、現役時代から確定拠出年金やNISAを有効に活用しておくことが、この段階にきて意味を持つことになります。
例えば確定拠出年金では、投資額が所得控除され、所得課税の繰り延べができますし、販売手数料はなく投資収益も非課税となります。商品の乗り換えもその口座の中であれば無料でできます。確定拠出年金では所得税を支払う前の収入から投資ができますから、計算上は投資元本を400万円よりも多くすることができるはずです。また、出来上がった1000万円を売却しても投資収益として課税されませんから1000万円がそのまま手元に残ることになります。ただ、その1000万円は退職所得として所得課税されますので、その時点では所得税を支払う対象になります。もちろん退職所得控除がありますので、多くの場合には退職所得として課税されることがありません。
NISAの有用性と手間
NISAでは、金融機関によって異なりますが、販売手数料がかからないところが多く、また全ての投資収益が非課税になります。もしこの1000万円を現役時代にNISAで作り上げてきたのであれば、その売却益600万円に対して税金はかかりません。こちらも大きなメリットです。
ただ、2018年から始まったつみたてNISAだと年間40万円が投資上限でしたので、400万円をつみたてNISAだけで作り上げることは計算上できませんから、この前提は一般NISAで投資元本400万円を運用した結果となります。その資金は、どこかの段階で現在の新NISAに乗り替えるタイミングが来ます。そのたびに乗り替えの手続きをする必要があります。もちろん新NISAの年間投資上限は最大360万円ですから、1000万円を移管するためにはどんなに早くても3年は必要になります。非課税投資期間の区切りが来るたびに移管するのであれば、5年かかることになります。まあ避けられない分割「再」投資といったところでしょうか。
いずれにしても、こうした有用な口座を十分に活用しておくことは、資産形成から資産活用への移行期においてもメリットが大きいものです。
変えないことも選択肢
もうひとつ方法があります。実は、私がやっているのはこの2つとは違って、何も投資対象を変えないことです。変えるのは金融資産全体に対する比率だけです。有価証券のなかにおけるアロケーションを考えるよりも、全体に対する有価証券の比率で調整する方が意味があると考えたからです。もちろん、新たに投資商品を選ぶとなるとなかなか面倒なことも多いですから、これまで長く付き合ってきた投資信託をできるだけそのまま保有するという考え方でもあります。
この方法のメリットは、売買の手間とコストがそれほどかからないことです。ただ保有する資産が多い場合には、あまりお勧めできない方法です。
4株式市場に投資を継続
私の場合も一般NISAでの投資をしてきましたから、新NISAに資産を移す際には一度、現金化をしなければなりません。その時にはこの10年くらいで新しく設定された投資信託に一部買い換えましたが、それでも投資方針である、日本株、アジア株、欧州株、米国株にそれぞれ投資する方針を変えてはいません。
またそれ以外の口座で保有している投資信託に関しても、原則そのままで変更していません。もちろんいろいろ考えるのは嫌だからという、あまり評価できない「現状維持バイアス」が強く出ている可能性もあります。