私の心情(215)―お金との向き合い方73-個人資産、有価証券増で3200兆円超え

「個人金融資産が2100兆円に達した」ということは、金融のビジネスに関わっている人には良く知られていることではありますが、デキュムレーションの分野で資産との向き合い方を考えていると、金融資産だけではなく個人が保有する土地なども含めた資産全体を見ることの方が多くなります。

このブログでも、2019年のデータを取り上げた「私の心情53―個人資産3000兆円時代」、2020年のデータを取り上げた「私の心情152―2020年の個人資産」と紹介してきました。今回のブログでは2021年の個人資産のデータを紹介します。

有価証券、10年ぶりの高い伸び

2021年度の国民経済計算(2015年基準、2008SNA)のデータでみると、2021年末の個人(個人企業を含む家計)が保有する金融資産は2034.6兆円で、個人が保有する土地729.7兆円とその他の非金融資産446.4兆円を合わせると、個人資産は3210.8兆円となりました。

2021年の特徴を列挙してみますと、

  • 個人資産の前年比伸び率が7%と1994年の同8.0%以来の高い伸び。
  • その原動力は前年比9%増となった有価証券等の伸び。伸び率は2013年の28.1%以来10年ぶりの2割超。
  • 個人資産に占める土地の比率が7%と、3年連続して低下。
  • 現金・預金は前年比4%増、構成比は34.0%で、2009年に初めて30%台に乗せ、その後12年間30%台前半の水準で横ばい。

バブルピークと比べると有価証券等増はほとんど貢献せず

これをバブルのピークだった1990年と比較すると、

  • 個人資産額は31年間で僅か5兆円増、率にして17.3%増にとどまる。失われた30年といえる状況。
  • 有価証券等は伸び率こそ4%増と高いが、増加額はわずか87.1兆円に留まる。個人資産全体の増加額474.5兆円の18%にとどまる。個人資産に占める比率は90年の9.5%から21年10.8%とほとんど上昇していない。
  • 土地は9%減となり、残高で755.7兆円を失う。個人資産に占める比率は90年の54.3%から21年には6割低下して2.7%に。
  • 現金・預金は1兆円と、1990年比616.7兆円増加して、2.3倍に拡大。個人資産に占める比率は90年17.4%から21年には34.0%に倍増

2010年以降に変化が表れている

直近30年間のトレンドに大きな変化が出ているわけではありませんが、この10年ほどでは有価証券等を含め金融資産が増加し始めている姿も垣間見えます。また土地の下落にもブレーキがかかりつつあります。

2010年末との比較でみると、11年間で個人資産は526.6兆円増加していますが、そのうち有価証券等は140.5兆円の増加となっており、貢献度は26.7%です。90₋2010年には有価証券等は75.7兆円のマイナスでしたから、様変わりといえます。

もちろん、2010年以降個人資産が19.6%しか伸びていないことそのものが課題ですから、増加の4分の1を占めることを喜んでいるわけにはいきません。資産所得倍増、資産運用立国と有価証券シフトを謳うキャッチフレーズが注目されていますが、重要な点はそれによって個人資産をもっと増やせるかどうかにあると思います。

インフレのチカラが構成比をどう変えていくかに注目

やはり注目されるのはデフレからの脱却になるかと思います。インフレの兆候は現金・預金の購買力を低下させますから、最大構成比となっている現金・預金の構成比もどこかでピークアウトになるはずです。一方で、政策的な後押しが進んでいる有価証券の比率も上昇を続ける可能性が期待されますし、下落が止まってきた土地の時価も動き始めるかもしれません。個人資産の構成比に大きなトレンドの変化が現れることになるかもしれません。

高齢層が2000兆円の個人資産を保有

ところでデキュムレーションの視点から、個人資産の拡大策を考える際には、高齢層の資産保有状況が気になるところです。2019年の全国家計構造調査のデータから年代別の保有資産比率を推計し、それを個人資産ベースに当てはめてみたのが次の表です。

現金・預金、有価証券で60歳以上が全体の3分の2を保有しており、土地でも6割弱となっています。経過年数が長い場合には評価額が急速に小さくなる点を考慮すると、実質的には高齢者の保有額はそれを上回っているのではないでしょうか。また全国家計構造調査では生命保険等のデータがありますが、それも58.5%でした。

総じて、60歳以上が個人資産の6割以上を保有しているとなれば、その額は2000兆円となります。その規模の大きさからすると、高齢層の資産活用を十分に議論することは、個人資産の拡大を担保するためにも重要な視点といえます。