私の心情(186)―地方都市移住54-退職後の生活のカギはやはり家(神戸)
「今、月1、2回だけアドバイスをしている会社で、若い社員によく言うんですよ。今から退職後のことも準備しておくといいよって」。こんな話を聞かせてくださった65歳のYさんは、2022年12月に神戸に移住してきたばかりでした。
現役時代は一度も住むことがなかった神戸
Yさんは、神戸に生まれて大学まで神戸に住んで、1980年に大手流通企業に就職。近郊の店舗での勤務かと想像していたようですが、最初の赴任地は徳島。初めて地元を離れました。それから福山、広島、東京、千葉、埼玉と、40年以上にわたって神戸を離れた典型的なビジネス優先の生活でした。
その甲斐あって、50代になってからは店長になり、いくつもの店を任され、60歳の定年以降も店長の肩書で給与も変わらず務めることができたとのこと。65歳になって再雇用の誘いもあったとのことですが、さすがにアルバイト程度の収入といわれて、退職。それを機に神戸に戻ることを決めたそうです。2022年にさいたま市から神戸に移住です。
Uターン移住
神戸へのUターン移住を決めた直接の理由は、お兄さんに言われた「40年以上、神戸を離れてやっと自由になるんだから、最後の数年は親と一緒に生活してやれよ」の一言だったようです。とはいえ、高校・大学時代の友人が神戸に多くいることは、神戸の魅力としては欠かせないところ。就職してからも、学生時代の友人とは、神戸だったり、東京だったり互いの行き来の際に、趣味の麻雀、競馬、将棋を一緒にし、またその仲間と北海道へ旅行に行くことなどして、ネットワークが続いてきました。これも今回の移住の決断にも大きく影響しているとのこと。
神戸にはご両親が饅頭屋さんを商っていたのですが、阪神淡路大震災で家が半壊したことから同じ神戸市内に引っ越されました。お父様が亡くなってからは、お母様おひとりで20年近く、神戸のマンションに暮らしていらっしゃいます。お父様が亡くなられたあと、そのマンションは生前贈与されてYさんの名義になっていますが、93歳になるお母様がご健在で、そこに住んでいらっしゃいます。
親の隣のマンションを購入
Yさんは、Uターン移住に際してお母様と同居を選びませんでした。偶然にも空いたその隣の部屋を購入し、お母様と隣同士の生活をスタートさせました。そのマンションは、もともと従弟の方が所有されて住んでいたのですが、そちらも親の関係で移住することになり、そのマンションを買い上げたということです。
購入額は1000万円で、リフォーム代を加えても1500万円で親のとなりのマンションを購入できたわけです。同居ではなく、でもすぐ近くに住めるというこの距離感は、Yさんの奥様にもきっと受け入れ安いものだったのではないでしょうか。
資産形成はしなかったが退職金が退職後の支えに
現役時代、やはり負担だったのは住宅費だったと振り返っています。店長になった最初の店舗では、家賃は全額会社補助だったそうですが、その後は自己負担が大きくなったようです。退職直前のさいたま市のマンションは月13万円だったので、移住してその負担が無くなったのは楽な点かもしれません。
その負担があったので資産形成をすることはできなかったと考えていらっしゃいます。しかし、60歳の定年時に受け取った退職金3500万円(額面)があり、この中からマンションの購入費を賄い、残った1000万円ほどの預金が退職後の生活資産になったとのこと。
基礎的な生活費は年金でカバーできるだろうとみています。65歳から年金を受け取ることにして、その総額は300万円弱とのことで、比較的おおい水準ではないでしょうか。
親の家の問題
親の家は難しい問題です。奥様の福山市のご実家も現在空き家状態だそうです。Yさんが福山での勤務時代に社内結婚された奥様は、お父様が亡くなられ、お母様が施設で暮らしていらっしゃいます。時々、訪ねては掃除をしているとのことですが、一人娘の奥様としてはいつか売却することになるのではないかと想像されています。売却できるのか、いくらで売却になるのかなどなど、親の家の問題は、自分も高齢の親が岐阜の実家に住んでいますので、他人ごとではありません。
もちろんYさんも2つのマンションを持っていることになりますから、お母様が亡くなった後はその家をどうするのかも考える必要があります。息子さんにとっての親の家の問題です。「一人息子が千葉に住んでいるので、その子に生前贈与してもいいかも入れない」とYさんは考えていらっしゃるようです。奥様も大賛成で、お子様と一緒に住めるのを本当に期待していらっしゃいます。Yさんが亡くなった後、奥様は息子さんと一緒に暮らされるのが楽しみとのことですが、さて息子さんの気持ちは如何でしょうか。
退職して半年
Yさんは、典型的なビジネスパーソンといった感じです。40年以上のサラリーマン生活で初めてまとまった休みを取ったのが退職する年の6月。そこから正式に退職となる9月までは休みを取るようにいわれて、「ついに有休を消化することになった」といったお話を伺うと、「まさしく!」と思います。
そして、その期間に慌てて退職にかかわる年金、社会保険、健康保険など行政関係の手続きを行ったそうです。あわただしい退職直前にその準備をされたそうですが、この経験が、冒頭の若い人への教訓につながっているとのことでした。個人的には、資産形成も含めて準備されておくことも重要に感じます。
退職をしてのんびりしていることから、YouTube を楽しんでいて1日の中で最も使っているとのこと。しかもつまみ食いをしながらなので、「神戸に引っ越してきてから実は5キロも体重が増えてしまった」ようで、これはちょっと気を付けたいところです。
インタビューを終えて
今回のインタビューでは、家のことがクローズアップされました。
Yさんは実は93‐94年頃に、マンションを買おうと探したそうですが、7000‐8000万円といったあまりにも高い金額だったことから手が出なかったと話してくださいました。確かにバブル経済のピークは過ぎていたとはいえ、93‐94年からの下落もかなり大きかったので、振り返れば「買わなくてよかった」というのが正直な感想だと思います。
ただ、大きく下落していたとしても、そのマンションを売却した価格で、先ほどのマンションを買うことはできたのではないかと思います。移住を前提にすると、大都市で購入した住宅価格が大幅に下落していても、その価格で地方都市では新しい住宅を購入することが可能になることがよくあります。これまでのインタビューでも多くの方が、そうした経験を語ってくださっています。