私の心情(180)―資産活用アドバイス70-2023年60代6000人アンケート―金融リテラシーと金融詐欺被害
60代のお金や生活の満足度に関して分析する際にどうしても避けて通れないのが、金融リテラシーの問題と、実害としての金融詐欺被害の実態でした。そこで、2023年の「60代6000人の声」アンケート調査では、新たに金融リテラシーに関する設問と金融詐欺被害にあったどうかに関する設問を加えることにしました。
金融リテラシー・クイズをアンケートでも実施
金融リテラシーは多くの調査で、それぞれの方法を使って調査・分析されていますが、設問数の関係もあって「60代6000人の声」調査では、金融広報中央員会「金融リテラシー調査2022年」のなかの金融リテラシー・クイズと同じ設問、選択肢で実施しました。具体的には、
- 家計の行動に関する次の記述のうち、適切でないものはどれでしょうか、
- 一般に人生の3大費用といえば、何を指すのでしょうか、
- 金利が上がっていくときに、資金の運用(預金など)、借入れについて適切な対応はどれでしょうか、
- 10万円の借入れがあり、借入金利は複利で年率20%です。返済をしないと、この金利では、何年で残高は倍になるでしょうか、
- 金融商品の契約についてトラブルが発生した際に利用する相談窓口や制度として、適切でないものはどれでしょうか、
の5問を聞いています。それぞれの選択肢はグラフに示していますので、ご確認いただきたいと思います。
5つの金融リテラシー・クイズとその回答分布
60代は早とちりが多い?
正答1問につき20点として、60代の平均値は46.9点でした。金融リテラシー調査2022年の60代平均値は57.6点でしたから、このアンケートの回答者は10点(0.5問)ほど点数が低いことがわかります。残念ながら金融リテラシー調査では60代だけの正答分布が公表されていませんので、「60代6000人の声」の回答者の方が10点ほど低い理由がどこにあるのか不明です。
ただ、全体のバランスからみると、どうも①の設問に対する正答数がかなり低いことから、「適切でないもの」という設問を誤解した可能性があります。回答比率が最も高かったのが「本当に必要か、収入はあるかなどを考えたうえで、支出をするかどうかを判断する」という「適切なもの」を選んだ人だったので、設問をしっかり読めなかった結果なのかもしれません。
金融リテラシーを引き上げるだけでいいのか
さて金融リテラシーの向上はこのところ急速に注目されています。私も委員を務めた金融審議会「顧客本位のタスクフォース」での議論では、金融リテラシーの向上に向けて2024年には「金融経済教育推進機構(仮称)」を設立することも決まっています。しかし、「60代6000人の声」調査では、この年代の人にとって、“必ずしも金融リテラシーを向上させることが求められているわけではない”と思わせる結果が出てきました。
これまで金融被害にあったかどうかを聞いた設問では、60代になってから「被害にあった」と回答された方は97名、全体の1.5%でした。しかし、60代よりも前に被害にあったと回答した344人、5.3%まで加えると、実に15人に1人の割合で金融詐欺被害にあったことがわかりました。決して少なくない被害率だと驚くと同時に、金融リテラシーが高ければその被害にあいにくいといえないことも見えてきました。金融リテラシー・クイズで全問不正解だった869人でみると、被害率は7.6%、5問全問正解の554人でみると被害率は5.8%です。確かに2ポイントほど差がありますが、有意といえるほどではないように感じます。
自信過剰の人ほど金融詐欺被害にあいやすい
しかし、下の表にあるように金融リテラシー・クイズの正答数と金融リテラシーに対する自己評価でセグメント分析すると、自己評価では「同年代よりも高い方だ」と回答している人で、実際には正答数が平均値を下回る(2問以下の)人の被害率はいずれも10%を超えています。実際には金融リテラシーの高さよりも、金融リテラシーに自信過剰な人ほど被害に多くあっていることがわかります。
60代にとっては、単に金融リテラシーを引き上げるためのサポートだけではなく、自身の金融リテラシー水準を理解するためのサポートも必要になってくるのではないでしょうか。
生活の満足度と金融詐欺被害率は逆相関
もう1つ注目したのが、5つの満足度と金融詐欺被害率の分布を調べた結果です。下のグラフにあるように、生活全般の満足度を始めとして5つの満足度すべてで、満足できる(満足度5点)と回答した人ほど金融詐欺被害率が低く、満足できないに近づくほど被害率が高くなっていました。これは満足度が低いから詐欺にあいやすいのか、詐欺にあいやすいから満足度が低いのか、それともその2つの間にある何かの別の要因(例えば所得や資産水準など)が起因して満足度にも詐欺被害率にも影響を与えているのか、今のところ明確ではありません。ただ、かなり有意な逆相関があることは確かなようです。