私の心情(177)―資産活用アドバイス67-2023年60代6000人アンケート―生活満足度の実態
2023年の「60代6000人の声」アンケート調査に関する分析の第4弾は、満足度調査の結果をまとめます。
地方都市移住は生活費のダウンサイジング策
Well-Beingに関する議論でよく引用されるのがGallupの考え方です。これはRath and Harter(2010)が上梓した「Wellbeing:The Five Essential Elements」という本(Gallup Press)で展開されているコンセプトで、Well-beingはCareer Wellbeing、Social Wellbeing、Financial Wellbeing、Physical Wellbeing、Community Wellbeingの5つで構成されるとするものです。それをこのアンケート調査では、5つの満足度と対応させています。
まずWell-beingそのものを「生活全般の満足度」としています。そして、日々の生活に対する満足度であるCareer Wellbeingと生活そのものに対する関わり度合いであるSocial Wellbeingは、退職前後の世帯という60代の特徴を考慮して「仕事・やりがいの満足度」に代替させています。また、効率的にお金に関わる生活面を管理できているFinancial Wellbeingを「資産水準の満足度」、 健康と気力に関わるPhysical Wellbeingを「健康状態の満足度」、そして生活する地域に関するエンゲージメントとしてのCommunity Wellbeingを「人間関係の満足度」として考えたわけです。
なお、分析に使ったデータは、5つの満足度ともに「満足できる」、「どちらかといえば満足できる」、「どちらともいえない」、「どちらかといえば満足できない」、「満足できない」で回答してもらい、5点から1点を配点しています。
資産水準には満足できないが生活全般には満足している
まず5つの満足度の全体像ですが、下のレーダー・チャートを見ていただくとわかりやすいと思います。生活全般の満足度は3.08点で、「どちらともいえない」とする中庸の点数3点をわずかに上回っています。また健康状態の満足度、仕事・やりがいの満足度、人間関係の満足度もともに3点を上回る水準となっていて、唯一、資産水準の満足だけが2.69点と3点を下回っています。
これは、言い換えると「資産水準には満足していないけど、それでも生活全般には満足している」という表現になるでしょうか。それは2019年の「老後2000万円問題」の騒動のなかで、「お金があれば幸せだというわけではない」といった批判にも通ずるもののように感じられます。
年齢が上がっても資産水準の満足度は上がらない
5つの満足度のバランスは、2022年の調査(初めて5つの満足度の調査を実施)とほぼ同じ結果でした。
ただ、年齢別に比較すると、資産水準の満足度には2022年と2023年で違いが出ています。年齢別の資産水準の満足度は2022年では年齢が高いほど満足度も高まるという傾向が比較的はっきり出ていましたが、2023年ではそれほど顕著ではありません。これは、回答者の属性の違い、特に資産0円世帯の多さに影響を受けている可能性があります。ちなみに2023年の資産0円世帯比率は全体の23.3%、2022年の調査では16.8%でした(「私の心情174—500万円の収入/300万円の支出の生活」を参照)。また69歳の資産0円世帯比率は2023年の調査では27.1%とすべての年齢で最も高い水準になっています。
配偶者の存在が満足度に影響
生活の満足度は家族構成にも大きく影響を受けると考えられます。学術的な分析では、配偶者がいることが満足度を引き上げると指摘されていますが、今回の調査でも同様の傾向が出ています。表でハイライトされたところは、全体の平均値よりも高い数値となったセグメントですが、明らかに夫婦のみの世帯、または夫婦と子どもの世帯の満足度が高いことがわかります。
相関係数は資産水準が最も大きい
ところで、資産水準の満足度が最も生活全般の満足度を引き上げる力があることも分かっています。2023年の調査結果をもとに、生活全般の満足度と残りの4つの満足度の相関係数を分析すると、その係数は表の通り資産水準が最も高いという結果になりました。すなわち、平均水準としては最も低い資産水準の満足度は、他の3つの満足度よりも生活全般の満足度に与える影響が大きいわけで、この改善が実は重要だとわかります。
単身世帯の生活全般の満足度を引き上げるために資産運用も
さて、先ほど家族構成と満足度のデータでは、相対的に単身世帯の満足が低くなることが示唆されました。とはいえ、家族構成を変えることは簡単にはできません。しかも、現在60代の約4分の1の世帯がシングル世帯で、人数でみると男性は169.9万人、女性では196.6万人に上ります(2020年の国勢調査)。このセグメントの生活全般の満足度を上げるための施策、それも自分でコントロールできるような何かが本当に必要となっているように思います。
その一つが、資産運用を行うことではないかと感じています。下のグラフでは、世帯構成別に、資産運用をしている人(①)、資産運用をしていたが既に止めている人(②)、一度も資産運用をしたことがない人(③)の3つに分けて、生活全般の満足度と資産水準の満足度の平均値を出しています。これをみると、2つのことが推測されます。
まず1つ目は、満足度の平均値がすべてのセグメントで①>②>③の順になっていますから、単身世帯でも資産運用をしていることが満足度の向上につながっているのではないかとみられる点です。もちろん資産が多い人ほど運用をしているだろうから、それはやはり資産水準の結果かもしれません。ただ、2022年のアンケート分析では、単身世帯のみを対象に重回帰分析を行った結果、生活全般の満足度に対する資産額の影響は有意ではなかったものの、資産運用の有無(①と②を資産運用有とした)は有意な影響がありました。今回の調査結果をもとに、改めて詳細な分析をやってみたいと思います。
もう一つは、①と②の差と、②と③の差をみると、前者の方が大きいセグメントが多い点です。これは、単に資産運用の経験ということではなく、現在資産運用をやっているという行為そのものが満足度の向上に効果があることを示唆しているのかもしれません。資産運用によって社会とのつながりを維持し、生活に張りをもたらすといった生活の刺激が満足度を高めていると想定できるかもしれません。いずれにしても、もう少し細かく分析をする必要があります。