私の心情(176)―資産活用アドバイス66-2023年60代6000人アンケート―地方都市移住

2022年の「60代6000人の声」アンケートをご覧になった方は、このアンケートが地方都市移住にフォーカスしていることに特徴があることをご存じだろうと思います。そもそも対象となる6000人以上の60代はすべて人口30万人以上の都道府県庁所在都市に居住している人です。そのなかから東京、大阪、名古屋の3大都市に居住している人には地方都市への移住の可能性や考え方を、それ以外の31都市に住んでいる人にはそれぞれの都市の魅力や、過去10年以内に移住してきた人には移住の評価なども聞いていいます。

地方都市移住は生活費のダウンサイジング策

なぜ地方都市移住が退職後の生活において重要なのかという点を改めてまとめておきます。退職後の生活をよくしようと考える場合には、「生活費=勤労収入+年金収入+資産収入」の等式を念頭に置く必要があると考えます。

退職すると、現役時代と違って、勤労収入が生活費をすべてカバーできるほど多いわけではありません。その代わりに期待される年金収入は、一度受け取り始めると金額は固定されます。それで足りない時は、保有する資産を取り崩すことで賄います。退職後の長い人生の後半を想定すると、年金と資産収入が人生を支える柱になってきますが、保有資産寿命を延命するためにも生活費そのものを抑制することが必要になります。生活のダウンサイジングですが、その手段の一つが地方都市への移住なのです。

6人に1人が移住を検討

アンケート回答者のうち東京、大阪、名古屋に住んでいる2149人に地方都市移住に関して聞いたところ、11.8%が「検討している」、5.1%が「検討したがあきらめた」と回答しており、合計で6人に1人が地方都市移住を検討している、または検討していたことがわかります。また、3大都市以外に現在住んでいて過去10年以内に移住した人は全体の1割435人いました。こちらの数値も思った以上に高いと感じています。

4分の3が移住してよかったと評価

今回のアンケートで、実際に地方都市に移住された人435人に、移住の評価を聞いています。そのうち316人が「移住してよかった」と回答しています。2019年からの5年間で4回移住に関するアンケート調査を行っていますが、そのすべてでほぼ4分の3の人が「移住してよかった」と評価しています。

しかもその評価した理由として31.4%の人が「生活費の削減が可能になった」と答えています。ちなみに、思ったほどよくなかったと回答した119人にその理由を聞いたところ、38.4%の人が「思ったほど生活コストが下がらなかった」と回答し、トップとなりました。地方都市移住の評価のポイントとして「生活費の削減」が大きいことがわかります。

住んでいる人の生活全般の満足度が高いほど都市の推奨度も高くなる

移住の実態から少し離れて、住んでいる都市に関する居住者の評価をまとめてみます。すべての回答者に、「生活全般の満足度」を5段階評価(満足度の詳細に関しては次回号でまとめます)で、「退職後に生活する都市として現在住んでいる都市を推奨するか」を11段階で評価していただいています。

その結果を、都市別に集計して、平均値を出してプロットしたのが次のグラフです。ばらつきは大きいのですが、傾向としては住んでいる人の生活全般の満足度が高い都市ほど移住先として推奨する度合いも高いことがわかります。当然といえば当然なのですが、そうであればこそ、地方都市への移住を促進したと考える自治体としては、住んでいる住民の満足度を高めないで移住希望者の優遇策だけを図っても移住促進には力になり切らない可能性がありそうです。

なお、個人的には、松山市を移住先として長く奨めているのですが、今回はその松山市が突出して高い数値になっているのはちょっとうれしいところです。

都市の規模によって推しのポイントが異なる!

となれば松山市が移住先としていいのか、といわれると「あくまで私個人としては」ということになります。というのも、都市のどんなところを評価するのかは人によって様々だからです。アンケートでは、自身が住んでいる都市の良い点と課題になる点を挙げてもらっていますが、都市の規模によってその魅力度が大きく分類できることも分かります。

次の表は住んでいる都市のよい点を挙げていただいた結果を、都市の規模ごとに集計した結果です。アンケートでは、12の項目を選択肢として提示し、そこから複数回答可で答えていただいています。グラフで色を付けたセグメントは全体値よりも高くなっているところですので、相対的な都市の特徴とみることができます。これでみると明らかに人口100万人以上の都市では、医療サービス、公共サービス、交通の便の3つが相対的に高く評価されていることがわかります。これは全体的に「都市機能」を評価しているということでしょう。

これに対して30-100万人の都市では、「物価の安さや住居費の安さ」、「食べ物、気候、環境の良さ」といったことが「良い点」として挙げられています。こちらは「生活の楽しさ」を評価しているといえそうです。

こうした差異を考えれば、自身が退職後の移住先としてどんな点を望んでいるかがわかれば、自ずと移住すべき都市の規模感もみえてくるのではないでしょうか。こうした傾向は、2022年の調査でも同様でしたから、比較的普遍的な考え方といっていいように思います。