私の心情(175)―資産活用アドバイス65-60代6000人アンケート―資産寿命の延命策

7割が資産寿命は何とかなると考えている

前回の「私の心情174」に続いて2023年の60代6000人アンケートの結果からポイントを紹介します。2022年の調査でも行った資産寿命の延命に関する設問と分析を2023年の60代6000人アンケートでも行っています。

直截的に聞いているのは「保有している資産で自分の寿命をカバーできると思いますか」との設問になりますが、14.3%の人が「十分できると思う」、52.3%の人が「何とかギリギリ足りると思う」と回答しています。併せると約7割の人が「何とかなる」と考えているわけで、ちょっと楽観過ぎるように感じます。ちなみに2022年でも同じ設問をしていますが、17.9%が「十分できると思う」、51.9%が「何とかギリギリ足りると思う」と回答していて、何とかなるという視点では変わらない水準です。

「まったく足りない」との選択肢も含めて3つの選択肢の回答者比率を、保有する資産ごとに比較したのが下のグラフです。2022年のデータでも同様の結果となっていますが、「まったく足りないと思う」と懸念する回答は資産水準が高まるにつれて大きく低下する一方で、「十分できると思う」との回答は資産水準が高まるにつれて上昇していきます。「資産が多いほど資産寿命への安心感が増す」という点は理解しやすいことですが、気になるのは資産水準1-500万円の人でも36.5%が「何とかギリギリ足りると思う」との回答している点です。もちろん資産水準が1億円をこえていても37.5%が「なんとかギリギリ足りると思う」と控えめに答えている人もいて、「いくら資産があっても資産寿命は心配」なのかもしれません。

資産寿命の延命策は「生活費の切り詰め」

資産水準に関わらず資産寿命に対する楽観的な評価を持っているのは、対策があってのことかもしれません。そこで次の設問では保有する「資産寿命の延命策」の選択肢を列挙して、その中から選んでいただいたのですが、最も多いのは「生活費を切り詰めて支出を抑える」との見方です。全体の33.6%の方がそれを挙げています(2022年の調査では31.8%でトップ)が、特に保有資産1-500万円の層では、回答者の比率は46.2%と非常に高い水準で、資産が多くなるにつれて、その選択肢の比率が低下するのが特徴です。世帯年収別にも、年収が多くなると急速に「生活費を切り詰める」ことを選択する比率が低下します。

次の対策が32.5%の人が選んだ「少しでも長く働いて収入を得る」です(2022年の調査では28.9%で同じく第2位)。この選択肢の特徴は、保有する資産額が多くなっても、あまり比率が低下しないことです。1-500万円の資産保有層では36.2%ですが、資産1億円以上層でも24.4%がこの選択肢を選んでいます。世帯年収別にみても、同様にあまり大きな変化がありません。「長く働く」という選択肢は、金融資産、年収に関係なく共通に持つ対策のようです。いやもしかすると「希望」なのかもしれません。

3つ目に回答者が多かった対策は「持っている資産を株・債券・投資信託などで運用することを考える」で、16.4%の方が選んでいます(2022年の調査では18.2%で第3位)。運用することで資産寿命の延命を図るという考え方は、資産が多いほど強くなる傾向がはっきりしていて、保有資産が5000万円を超えると資産寿命延命策のトップに立ち、資産が1億円を超えると41.5%が挙げる選択肢となっています。ただ、年収別には、年収が上がるほど選択される比率は高まるものの、保有資産別の変化ほど大きな変化がでていない点も特徴といえます。

資産保有額別にみると、資産の少ない層では「生活費の切り詰め」が中心で、資産が増えるにしたがって生活費の切り詰めから「資産運用」へと対策が変わっていくのが特徴になっています。

60代、4割が資産運用

資産寿命の延命策としては、16.4%の方しか挙げていない「資産運用」ですが、純粋に資産運用をしているかどうかだけを聞いてみると、「資産運用している」と回答された方は38.0%に達します。「資産寿命の延命策としての優先度は高くないけれど、資産運用はしている」という人が多いようです。

ちなみに保有資産のレンジで501万円以上1000万円以下の層(回答者680人、構成比10.5%)では42.2%が投資をしており、資産保有額が大きくなるほどその比率は上昇し、1501万円以上2000万円以下の層(回答者486人、構成比7.5%)では51.4%と過半数を超え、2001万円以上5000万円以下層(回答者1138人、構成比17.5%)では60.5%が投資をしています。

「使いながら運用」せざるを得ない世代が多くなっている

2019年の全国消費実態調査をみると、70代以上の方の世帯のうち有価証券を保有している世帯の比率は26.9%でした。その人たちの10年前の状況を、2009年の60代のデータで見てみると、35.5%の世帯が有価証券を保有していました。これは、この10年間で60代の全世帯の1割くらいが有価証券を0円になるまで売却してしまったことを示しています(保有世帯が減るというのは保有をゼロにしている結果)。これは大きな課題といえます(詳細は「私の心情158:なぜ資産活用が大切なのか」を参照)。

調査のベースは異なりますが、60代の4割が資産運用を行っているとすれば、その人たちが70代になるまでに、同じように保有する資産をすべて現金化するといったことをどれだけ減らせるかが大きな課題になると思います。資産は、特に「有価証券という資産は全額現金化してから少しずつ取り崩すというのではなく、運用を続けながら少しずつ取り崩すことができる」という考え方を広く伝えていくことが必要になります。