私の心情(15)―地方都市移住ー倉敷市児島に移住したKさん
特殊な地方都市移住ではない
「私なんか参考になりますかね、かなり特殊なケースだと思うんですが」
今回取材したKさんは、冒頭から何度かこうおっしゃいました。特殊なケースというのは、「妻とはずっと前に離婚していて、退職を機に一人暮らしをしている母と一緒に住むために倉敷の児島に移住してきた」ことをそうとらえているようでした。
でも決して特殊ではないと思います。2015年の国勢調査によれば、60代前半男性415.1万人の13.3%が、55.2万人が、未婚、死・離別でシングルです。なんとKさんが自身を特殊だという、シングルの人は60-64歳男性の7.5人に1人に上っています。歳老いた親がまだ健在であれば、そこに帰ろうと考えることは決して不思議ではないように思いました。
それにKさん曰く、「親と一緒に住んでいるのは、現役時代に家を買わなかったことも影響している」とのこと。大手製薬会社で営業職を続けてきたKさんは、早くに奥様と離婚し、娘さんの養育費を払いながらも、水戸、東京などで営業の現場を回り、10数年前には大阪の本部に転勤となりました。本部勤務とはいえ、医師とのコミュニケーションは製薬会社では非常に大切なため外回りも積極的にこなしていたといいます。
「家族がいないことから家を買うというモチベーションは全くなかった」ようで、そのまま賃貸に住み続けてきました。しかも会社には、独身での生活に関しては10年間に限って家賃補助を出してくれる手厚い福利厚生制度があったので、何となく良いマンションを借りて生活するようになっていたとのこと。現役時代はそのまま生活できたのですが、60歳で定年になって、その後、継続雇用で働くことを選んだものの、年収が半分に減ることになります。そうなってみると家賃の負担は大きく、「継続雇用は1年で諦めざるを得ません」でした。そして61歳で親元に戻ることになったわけです。
64歳になったKさんが今住んでいるのは岡山県倉敷市児島。人口は7万人強だが人口密度は1㎢当たり890人と、倉敷市の中では過疎化が進んでいるようだ。ちなみに倉敷市全体では人口が48万人強、人口密度は1㎢当たり1356人。当然、「児島は車がないと生活できないところ」となるが、児島駅近郊はそれほど不自由でもない様子だ。地元のデパート天満屋やヤマダ電機、ショッピングモールなどもあって、Kさん自身も「駅から12-3分のところに住んでいる」ことから、「できるだけ歩く生活をしている」らしく、駅周辺の利便性は高そうだ。
それに、児島はJR快速マリンライナーで四国の高松とは2駅の距離。瀬戸大橋の本州側起点であること、またジーンズ発祥の地として「児島のジーンズ」は有名で、観光客も多いようだ。取材の後、Kさんに案内していただいてJeans streetを訪ねてみた。新型コロナウイルスの影響もあって旅行客は少なくなっているとはいえ、若い人たちから私たちと同年代まで幅広く観光に来ている人がいた。
(次回に続く)