私の心情(141)―お金との向き合い方42-個人金融資産を拡大させるために

個人金融資産4000兆円を目指すための施策を網羅的に

これまでブログのなかでは、個人金融資産を現在の2000兆円から20年後には4000兆円まで拡大させるべきだという趣旨のコメントを何度も書いてきました。最初は、2020年7月21日の(私の心情27)「個人金融資産4000兆円を目標に」でした。2年前です。

それが最近になって、岸田首相の資産所得倍増プランもあって、いろいろな議論が出てくる中で、5月14日付けの(私の心情133)では、「資産所得倍増より金融資産倍増に」を、さらに6月23日付けの(私の心情139)でも「本当に増やすべきは資金流入」といったタイトルでも書きました。

ただ、金融資産増加のためのアイデアを網羅的にまとめることはしていませんでした。今回、改めて個別を深掘りするのではなく、ちょうど箇条書きのような形でまとめてみようと思いました。資産形成層向けの「収入から金融資産への流れを太くする施策」と、資産活用層向けの「有価証券の現金化を抑制するための施策」にまとめています。なお、多少、断定的な表現になっており、誤解を招きかねないところもありますので、その点は意を酌んでお読みいただけるようお願いいたします。

資産形成層向け―収入から有価証券への流れを太くする

NISAの改善:課題は、つみたてNISAでも売却が出ているような事態で、個人金融資産の拡大寄与度が高いとはいえないこと。対策は、

  • 恒久化:NISAの非課税期間は「●●年枠」の概念を作り、売るタイミングを考えさせてしまう。「枠」をなくすには非課税期間の恒久化が重要。
  • スイッチングの容認:回転売買抑制のためスイッチングを不可としてきたが、販売手数料の低下でその懸念は少なくなった。非課税投資の大きなプールを作るためスイッチングを認める。
  • 非課税額の拡大:年間枠の引き上げ、枠の繰り越し、生涯拠出上限額の設定など方法は多様。管理が簡単なのは年間枠の引き上げか。
  • 手続きの簡素化:英ISAと同様に限度額管理は本人の申告とすれば、口座の複数開設などの柔軟性も増す。ハードル高いがマイナンバーとの紐づけで可能性かも。

DCの改善:課題は、DC加入者の拡大、有価証券比率の引き上げの余地が大きいこと。対策は、

  • iDeCo+の普及:英国ではすべての企業に企業年金を義務づけ、2012-18年で1000万人近い加入者増に。中小企業向けに活用余地の大きいiDeCo+の拡大で加入者の増加を。FP等に口座開設のサポートのフィーを支払う形で、普及促進の重要な役回りに。
  • DCのロールオーバー可能に:退職時点で退職所得控除を使って引き出す人が多いが、現金化を伴う。有価証券を課税口座にロールオーバーできることで、現役後半の世代も退職の先を念頭に長期投資が可能に。退職時点の有価証券比率の低下も抑制できる。
  • 拠出上限額の拡大・簡素化:他の年金制度との関係で拠出上限に違いがあるのは難しい。一律化と拡大が資金流入の大きな力に。
  • デフォルトファンドの厳密化:インフレ懸念を払しょくするために、デフォルトファンドから元本確保型金融商品を排除。

日銀ETFの活用:課題は、日銀ETFの売却が市場波乱要因になりかねないなか、個人は資産形成の遅れに懸念。対策は、

  • 日銀の購入簿価で売却:英国、1980年代に創設された個人株式非課税口座(PEPs)は株式型ISAの前身。一時期に市場放出とならないように、一定年齢までの売却禁止を条件に、日銀ETFを個人に簿価で売却。

資産活用層向け―有価証券から現金への流れを抑制する

資産活用のアイデア普及:課題は、退職後に有価証券を保有しながら取り崩すことの考え方が知られていない。対策は、

  • 「高齢社会における資産形成・管理」のUpgrade版を作成:老後2000万円問題で、レポートの本質が十分に訴求されなかったが、その中身はこれからの超高齢社会に大切なポイントが多い。

有価証券現金化の抑制:課題は、退職以降に有価証券を現金化する圧力が多くなることから、これを抑制することが求められる。対策は、

  • 相続前に有価証券を現金化・保険化する流れの抑制:土地や保険に比べて有価証券の相続時の評価は厳しい。相続が発生する前に有価証券を売却して他の資産に振り替える動きを抑制する。
  • 日本版プルーデント・インベスター・ルールの導入:成年後見人が資産の保全として現金化を進めること避け、被後見人の資産をポートフォリオで管理できるようにする。
  • 相続NISAの導入:配偶者が亡くなった際に、その資産相当額を残された側の配偶者の翌年の年間拠出上限額に上乗せする英国の相続ISAを参考。上限枠の変更だけなので相続税とのバッティングは起きない。その際にもロールオーバーができるようにする点が重要。
  • NISAのスイッチング:高齢者にとってポートフォリオの保守化や低信託報酬商品への入れ替えが重要。その際に、一度口座から資金を出させることは有価証券比率を低下させかねない。

IFAの育成:高齢者の資産活用ニーズが高まるなか、それに応えるための独立系金融アドバイザーは重要なサービス提供者だが、課題は依然として玉石混交なこと。対策は、

  • 独立系アドバイザーの育成:独立系の定義の明示化。英国では、「商品はあまねく市場から、フィーは顧客から」の2条件。これを日本流に適用するために、①カバーする金融商品の数に最低限度を設ける、②サービスに対するフィーを顧客から受け取る姿勢を明確にする、などを検討。金融サービス仲介業の育成。
  • プラットフォーマーの育成:DCの運営管理業務などはアドバイザーのプラットフォーマーに拡大できる可能性がある。信託銀行などの参入促進。

網羅的に列挙してみましたが、問題は優先順位をつけて対策を実現することかと考えます。このブログをお読みになられた方からご意見をいただけること、期待しております。