私の心情(140)―地方都市移住46-「釣りバカ・ワーケーション」(岐阜)

高齢化率5割の消滅可能性の町

2年以上前の私の心情(21)(22)では、ワーケーションで有名な徳島県神山町の取材とインタビュー記事を収載しています。その時の記事を読み返してみると、高松市からバスで60分くらいの山のなかの風情は、私の岐阜の実家にそっくりでした。人口も一時は2万人くらいいたものの、今や5000人とのこと。高齢化率は52%。

ちなみに、岐阜県加茂郡白川町が私のふるさとです。名古屋からJR東海の特急ワイドビューひだで1時間15分くらい。特急が止まる駅なので便利ですが、1日に4本程度と、人口の減少とともに本数も減っています。白川町のホームページで確認してみると、総人口は7500人強、高齢化率は46.1%(2019年4月)。私が高校を卒業したころには1.3万人前後だったと思いますから、かなり減っています。なんだか神山町とよく似ていますが、どちらも2014年に地方創生会議が発表した報告書で消滅可能性のある地方自治体として名前が挙がっていました。同様の自治体は当時896あるといわれましたので、こうした状況は日本各地で起きているのでしょうね。

徳島県神山町(2019年撮影)

岐阜県白川町(2019年撮影)

急増する移住希望者

ところが徳島県神山町は、2005年に光ファイバー敷設を行い、グリーンバレーというグループが町おこしに注力し、2010年以降IT関係の新興企業がこの街にサテライトオフィスを構えるようになりました。そしてワーケーションの先駆的な町として有名になっています。

白川町も同様に人口の流入を増やすべくいろいろと努力をしています。とはいっても動き始めたばかりのようです。2019年に一般社団法人白川町移住支援サポートセンターを立ち上げ、ワーケーションと移住の体験コースを提供するなどの活動をスタートさせています。4月と6月に、同センターの代表理事兼センター長の鈴木さん、同センター集落支援員の坂田さん、そして役場企画課企画係の服部さんにお話を伺うことができました。

4月の取材時に教えていただいたのが、平成27年から令和2年までの6年間の移住者総数が77世帯、153人とのこと。「そんなに移住してくる人がいたんだ」というのが正直な実感でした。ちょっと驚きでしたが、そのほとんどの方が有機農業を目指す方々で、そのために移住場所が集中する傾向にあります。

さらに6月に取材すると今年度に入って移住希望者が急増しているとのこと。上記の6年間の年間移住者数は平均12₋13件だったのですが、今年度は4₋6月だけで12件がほぼ成約につながっている。いつもの4倍のペースです。今回の移住者は現役層、有機農業志向の方、そして退職層がほぼ3分の1ずつ。現役層は、個人事業主的な仕事をする人が多いようで、有機農業は一定の地区に先駆者の方が移住されており、それに教えを乞うような形で集まってきていらっしゃるようです。退職を機にという方は、完全にリタイアされてのんびり暮らすために移って来られているようです。それなりに資産をお持ちで、奥様は有機栽培や家庭菜園に興味があり、ご主人はそれを手伝うというタイプのようです。

ワーケーションはまだスタートしたばかり

一方でワーケーションの方は、ちょうど動き始めたところ。取材をさせていただいたセンターの事務所は古民家を改装したコワーキングスペースで、隣に宿泊施設も用意されています。4月に取材した時にはオープンを控えてまだ清掃中でしたが、コワーキングスペースは古民家の大きな梁が印象的で、天井の高い落ち着いた感じがありました。

6月に2度目の取材をした時には、すでに複数名が使われていたようですが、まだ稼働しているといえるほどではありませんでした。2週間ほどワーキングホリデイで宿泊しながら仕事をしていた女子学生、東京での仕事と合わせて副業として町役場の仕事も請け負って時々使っている方がいらっしゃる程度でした。

インタビューを終えて

神山町と比べると白川町は、ワーケーションの基盤がまだ整っていないというところでしょうか。やはり大容量の光ファイバーが通っていないなど本格的なワーケーションスペースを提供できないために、神山町のように企業が進出してワーケーションオフィスを借り上げていくというスタイルは難しいと思いました。ただ、ケーブルネットでWi-Fiをつなげて仕事をする程度では特段支障はありません。実際、私もこの原稿を書いているのはその白川町の実家です。そう考えると、代わりに、個人事業主や個人として参加するワーケーションの在り方が追及されて、それが移住にもつながるという形が理想のように感じました。

ちなみに私個人の発想ですが、白川町のワーケーションコンセプトは「同好の士が集まるワーケーションスペース」です。ちょうど6月はアユの友釣りの解禁シーズンです。6月から落ち鮎の秋まで、釣りに最適な時間帯である、「朝まだ来(朝が明けるまでの時間帯)」と「夕間詰め(夕方の日が落ちる直前)」は釣り竿を抱えて趣味に没頭し、その合間の昼間は仕事をするといった生活を楽しめるワーケーションスペースを提供するのです。きっと使いたいと思う人が、それも“会社ごと”ではなく、いろんな会社の釣り好きが個人として集まる、川釣りの同好の士が集まる「釣りバカ・ワーケーション」ができるのではないでしょうか。