私の心情(137)―資産活用アドバイス52-デキュム期のリスク性資産比率(NVICの奥野さんとの面談から)

 

 

 

 

 

 

 

先日、農林中金バリューインベストメンツに奥野さんを訪ねました。数年前、私の高校時代の親友の紹介でお会いし、その後もセミナーなどでご一緒していたこともあって、気楽に情報交換に応じていただけました。このコラムで2回にわたって、奥野さんとの会話のなかでいただいた示唆をもとに、デキュムレーション期におけるアクティブ・ファンドの使い方をまとめることにします。議論の内容は、あくまで私の考えで、奥野さんのお話が必ずしもそれを意図しておられたわけではないことを、最初に明記させていただきます。

現金と有価証券だけのポートフォリオ

「デキュムレーション期にアクティブ・ファンドをどう使ったらいいのか」というのが、そもそも整理したい点でした。まずは「退職時点までに積立投資で2000万円の資産ができた。退職後は徐々にリスクを下げるべきか?」と聞かれることがあり、これにどうこたえるべきかを考えてみました。

この議論をさせていただいたなかで、奥野さんは「基本は現金か有価証券かの議論だと思う」、「その基準は流動性の高さだ」、「有価証券のポートフォリオのリスク水準ではなく、資産全体の流動性の比率を考えること」、「当面の生活のために必要な流動性資産はどれくらい必要かを想定する」、「有価証券は不動産と比べると流動性は高いことも念頭に置く」といった点を指摘されました。

私も「預貯金と投資信託(私は株の投資信託だけ)のポートフォリオで十分だ」と思っています。さらに、アクティブ・ファンドの積立投資で作り上げた2000万円の運用資産を、退職したらよりリスクの低い投資信託に切り替える必要もないとも考えています。結果として、資産全体のリスクをコントロールするという視点から、「現金か有価証券」でその比率を考えれば良いと考えています。

非課税口座で作るとリバランスが難しい

投資信託を低リスクのものに切り替えなくてもいい理由は、リバランスに対するデメリットが大きいからです。例えば、そもそもリバランスができないNISAで資産を作り上げていくことは、持ち続ける運用になります。長期で積立投資なら収益率は高くなっていることでしょうから、退職後にリバランスとして一部を売却すれば、実現益を出して税金を払うことになります。その分、運用効率が悪くなります。せっかく長期投資で作り上げた資産なので、退職したからといって生活に充当する必要のない分までリバランスのために現金化するのは避けたいところです。余分な税金の負担は少なくすることが大切です。もちろん、資産形成する時代から、よい運用商品を選んでおくことは前提としてですが。

リスク性資産比率が66%だったら高いのか?

さて、質問を具体的な金額をいれて想定してみます。積立投資以外で、例えば預金が500万円あるとすれば、金融資産の総資産は2500万円です。そこに退職に伴い、退職金(住宅ローンの返済分を差し引いて)500万円を受け取ったとすれば、有価証券2000万円、預金1000万円で、総資産3000万円となります。ちなみに、総資産に占める有価証券比率は、退職金を受け取る前の現役時代に80%(=2000万円/2500万円)で、退職に伴い66%(=2000万円/3000万円)に下がります。

そこで、次は退職時点のリスク性資産比率66%が高いかどうかを考えます。リスク性資産の比率は、“100ー自分の年齢”とよく言われますが、それを参考にすれば65歳の退職時点のリスク性資産比率は35%(=100-65)となります。それに比べて、66%は高い数値に映るので、リスク性資産を1050万円まで減らして、比率を35%にするといったことも考えられると思います。950万円相当の有価証券を売却し、預金を1950万円にするというわけです。

収益率配列のリスクを念頭に流動性比率を考える

ただ、35%の有価証券比率が妥当かどうか気になります。流動性をどれだけ持てばいいかという視点から、有価証券比率を考えてみることも大切です。「有価証券か現金か」という2つの資産に分けることは、「有価証券は将来の生活のために、現金は当面の生活のために」と分けるということでもあります。その時に、現役時代よく指摘されたのは「生活費の6か月分を貯蓄に、それを上回る分は投資に回す」といった生活費目線でした。しかし、退職時点ではもう少し運用資産目線で考えてみるべきだと思います。

「有価証券で運用している資産に手を付けないでいるべき期間はどれくらいか」と考えることからスタートします。デキュムレーションの議論で何度か紹介している「収益率配列のリスク」は、退職直後に収益率が想定を下回ると元本の毀損が想定以上に大きくなるリスクのことです。その「退職直後」という期間はどれくらいかと考えるのです。前提条件がいろいろあるので即断できませんが、米国のテキストブックでは5-10年と記載されているものがあります。

生活費目線に加えて運用資産目線でも

例えば、その年数を5年と想定すれば、その間を乗り切れる流動性があればいいという考え方です。その5年間に、まだ働いて収入が見込め、さらに年金も受け取れるとして、保有する総資産3000万円からの引き出しは10万円で済むと見積ります。その5年間の資産からの取り崩し総額は600万円です。その他の必要額も含めて1000万円あれば、5年間、運用資産に手を付けずにいられるという計算です。

こう考えると、950万円の預金を積み増しは、必要ないものに感じられます。これが正しいというわけではありませんが、預金の比率を生活費目線だけではなく、運用資産目線で考えることも必要かもしれません。