私の心情(125)―地方都市移住39-人生で一度は横浜に住んでみたい(横浜)
横浜の高級マンションに奥様と二人でお住まいの64歳、Iさん。2人のお子さまはご結婚、独立され、今は、夫婦2人と犬の生活を楽しんでいらっしゃいます。窓からは横浜の海が見え、行き交う船を眺望できる素晴らしい景観を楽しみ、朝5時から山下公園で犬の散歩をさせるのが日課とのこと。
一度は横浜に住んでみるべき
ここに移住されたのは2020年3月。「ずっと東京タワーの見えるところに住んできたんです」と、麻布十番、芝浦などのマンションを10年くらいずつ転居されてきた経緯をお話いただきました。それにもかかわらず、2020年に横浜に移住されたのは、「たくさんの物件を見て回りましたが、この眺望は都内だとこの価格であり得ませんでした」というValueにありました。このマンションの価格は約1億4000万円。それはきっと素晴らしいものだと思います。
「人生で一度は横浜に住むべきだ」というのは、Iさんが現在のマンションに移られての素直な感想です。
キャッシュで億ションを購入
10年ちょっと前に売却した麻布十番の新築マンションとその後新たに住み替えた芝浦の高層タワーマンション、どちらも売却益として約3,000万円以上のプラスがあったそうです。しかし都内の港区エリアの新築マンションは今や軒並み1.7億円くらいになり、駐車場のも確保もままならない状況。そこで港区を諦め東京脱出、誰もが住みたい街で人気ナンバーワンの横浜への移住を考えたそうです。最終的には売却金額そのままでは買えず、今の横浜のマンションに移住するために、持っていた預金の半分近くを使って上乗せすることになったとのこと。
実は、Iさんご夫婦はともに基礎疾患の既往歴を抱えていて、住宅ローンを組むことができないとのこと。そのため、車を買うにも住まいを買うにも、現金決済を迫られています。その点で、今回の横浜への移住は大きな決断だったのではないかと思われます。しかも、カジノの誘致が立ち消えになったことで今のマンションの値上がり益を見込めないことにでもなれば、次回の転居の際に大きな誤算となりかねません。
旅行代理店はコロナ禍で営業休止中
これまで資産運用はされず、もっぱら仕事の収入が資産を創り上げていくための手段だったとのこと。Iさんは、大手旅行会社から独立して旅行代理店を経営されていました。その会社では、例えば「夜、自分がくつろいでいるときにお客さんから電話があって、『今、〇チャンネルでやっている番組のところに行ってみたいのでアレンジして』といった“わがままな旅行”需要にこたえる」サービスをされていたとのこと。ご夫婦ともに中国語が堪能だったこともあり、中国の富裕層向けのそうした「わがまま旅行」をアレンジしたり、国内のお医者様向けの「ドクターツアー」をアレンジされていました。大手旅行会社が嫌う「わがまま・くせ者客」がメインのお客様です。当時は4人のスタッフで業務をこなされていたとのことで、こうしたサービスだからこそ、リピーター率や収益性も高かったようです。
しかし、コロナ禍で状況は一変します。一気に需要が減って、今は休業状態になっています。ちょうど横浜への引っ越し時期と重なったわけです。それ以降、行政方面の非常勤職員(準公務員)として働いていましたが、そこも3月いっぱいで人気満了とのこと。また旅行代理店を復活させようかどうしようかと迷っていらっしゃいます。
現在、全額現金で購入したため住宅ローンの返済はないのですが、「管理費と駐車場代で毎月10万円以上かかっていることから、それを含めた生活費を賄うことが大変だ」とおっしゃいます。保有する資産から取り崩すことになるのですが、資産運用をされていないので、限界はあります。やはり対策は働くことが柱になりますから、旅行代理業の復活は必須要件といえます。
もう一度移住をするかも
ただ、その一方で「もうマンションライフは十分かな」という考えも生まれてきたようです。今の横浜のマンションでは素晴らしいロケーションを満喫できるのですが、買い物に行くには周りに気の利いたスーパーはないし、車で南部市場まで買い出しに行く生活も面倒だと思える時があるようです。まだ仕事をする必要上、都会に住み続けなければならないものの、「次は郊外に移ってもいいかもしれない」と思われているようです。
小さくても一戸建てに移れば管理費や駐車場代はかからないし、近くにモールがあれば買い物も楽にできるはず。もちろん犬のドッグランや遊び場も見つけやすいだろうし、といったところでしょうか。土地の購入代金や建屋の建築費用は今のマンションの売却額で充当(ほぼ等価交換)することを想定されているわけで、現在の預貯金残高はその後の生活用に使えるという計算です。
マンション選びはしっかりと
ところでマンションの生活に対して少しネガティブに感じていらっしゃるのは、コストの面だけではありませんでした。マンションの管理面でも納得のいかない点がいくつもあるとおっしゃいます。販売会社と管理会社の話が違っていて、「駐車場がある」といわれたのに「駐車場はあるが空きはない」といわれたり、「犬は小型犬に限る」といわれていたのに、「大型犬を飼っている」住人がいたり、といった齟齬が散見されるとのこと。こうした点は、ある程度生活のパターンが出来上がってきた60代にとってはなかなか受け入れ難いことになりかねません。
「最後の1部屋です」といわれて、しかも眺望があまりにも素晴らしかったことから購入を決めてしまったが、かならずしも「満足しているわけではない」とのことです。
取材を終えて
1億円を超えるマンション価格、場所がすぐわかるようなマンション名などが飛び交って、インタビューをスタートさせてすぐに「すごいお金持ちだ」というイメージを持ちました。しかしお話を聞いていくにつれ、本当のところは、長く働くというところに退職後の生活の主軸を置いていらっしゃる方だと感じ始めました。そうわかると、コロナ禍の影響は非常に大きいということが一段と強く感じられました。
正直なところ、港区から横浜の中心街へ移住したIさんの場合、「退職後の地方都市移住」というには、ちょっと異質なものかもしれません。ただ、住宅の価値・価額をうまく利用しながら住み替えていく、このパターンは、退職後の地方都市移住を考える際の参考になるようにも思います。インタビューをさせていただくと、住宅ローンをどうするか、移住先の住宅の購入費をどう賄うか、という点が非常にカギを握っているように思えるからです。