私の心情(114)―資産活用アドバイス43-デキュムレーション研究会をスタート
Thought Leadership活動を始めて15年
2022年は、私がお金との向き合い方に関するThought Leadership活動を始めてちょうど15年になる節目の年です。その年に「デキュムレーション研究会」をスタートさせることができました。
15年のThought Leadership活動を続けるなかで、いろいろなことに気づきがありました。当初、米国の先進的なアイデアを持ち込もうとしましたが、お金に関する認識のあまりの違いにそのまま輸入できませんでした。
そこで日本での実際の声を聴こうと始めたのが、アンケート調査でした。金融業界でもそれまでたくさんのアンケート調査がありましたが、そのほとんどが投資家調査でした。「投資をしている人にどうやってもっと投資をしてもらえるか」というのが、その主旨だと思いますが、本当に必要なのは「投資をしていない人がどうやったら投資を始められるか」を知ることではないかと思い、ビジネスパーソンを対象に1万人規模での調査を志向しました。それから10年強経ちましたが、今では多くの金融機関で投資家調査ではなく、「消費者調査」のコンセプトが進んでいると思います。
手つかずのままの「資産活用」分野
ここ数年、最も気になっているのが、資産形成ではなく、「作り上げた資産をうまく活用してどれだけ資産寿命を延命できるか」という「資産活用」の考え方に関する発信の少なさでした。今やNISAやiDeCoは、本やSNSでの発信を考えれば、大流行りといった感じです。若年層がこうした資産形成に関して興味を持つようになったことは素晴らしいことですが、出来上がった資産をどうするかを考えないと、「FIREを目指すだけの人」が増えるようなものではないかと気になります。
「高齢になって資産がほとんどない私は、幸せな老後が送れないのですか」と聞かれたら、金融業界の人はどう答えるのでしょうか。私の立場では「だから早くから資産形成をやっておけばよかったのに」では済みません。その状況で、対策はどうあるべきかを理路整然と作り上げておくのがThought Leareship としては不可欠なことだと思っています。
にもかかわらず、その「資産活用」の分野では、何も議論が進んでいないように思えます。「定率引き出し」という言葉を使い始めて、これも10年以上経ちますが、いまだに「それは目新しいアイデアですね」と評価されるほど知られていません。「持続可能な引出率」、「予定率引き出し」、「デキュムレーション」、「バッファー資産」、「資産寿命」、「資産運用寿命」、「使いながら運用する時代」、「地方都市移住」などなど資産運用だけにとどまらない、「資産活用」のアイデアを提供してきたつもりですが、まだまだ及びません。
2022年1月にデキュムレーション研究会を設立
実は2年程前から、この手つかずの状態の「資産活用」分野でもっと議論を高めていくために「デキュムレーション研究会」を立ち上げたいと考えていました。研究会というと難しそうですが、実際には時々集まってデキュムレーションに関する議論をしたいと思った程度です。そして、その議論が参加者の発信力で外に広がればいいなと思います。
コロナ禍で延び延びになってきたのですが、やっと2022年1月28日に設立の初会合を持つことができました。これから2か月に1回程度の研究会を開催する計画で、その議論は公開できるように考えていきたいと思っています。
なお、設立の趣旨と今後の論点、そして発起人メンバーは以下の通りです。
設立の趣旨は
「退職後のお金との向き合い方」に関して、これまでの日本では高齢者が現金・預金で保有する資産をいかに使わないようにして資産を持続させるかとする視点が中心でした。しかし、現役時代に有価証券運用で資産を作り上げてきた世代がこれから退職期を迎えると、有価証券で保有する資産を高齢者がどう生活に活用するかの視点が求められる時代になります。それは、退職後の生活のために取り崩す資産が、現預金から価格変動のある有価証券に変わることでもたらされる、取り崩し方の多様性を求めるものでもあります。しかも、今後50年間で現役世代が3000万人以上減少する超高齢社会では、現役世代に代わって高齢者が消費の柱のひとつになる、高齢者の消費覚醒とも呼ぶべき行動が不可欠な時代ともなります。
こうした現状の認識をもとに、『高齢者が安心して資産を活用できる超高齢社会を実現』するため、今後は、“高齢者が消費を促進させながらいかに有価証券資産の寿命を延伸させられるか”の議論を深める必要があります。日本でこれまで議論されることが稀であった、こうした退職後の有価証券資産の取り崩し・活用(Decumulation)に関する、調査研究、議論の整理、実際のシステム・商品、コミュニケーション手段などを、闊達に議論する「議論のインキュベーションの場」として、デキュムレーション研究会を発足させることといたしました。
当面の議論のポイント(順不同)は
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- 退職後の収入に対する考え方を類型化することで、資産活用に包括的に取り組める視座を議論し、整理
- 日本における「持続可能な引出率」を算出し、その意味と意義
- アドバイザーのコーチングは、資産活用にどれくらいのアルファをもたらすかを測定可能性
- 退職を迎える前の世代が資産活用計画を立てる際の参考として日本の目標代替率の推計と、その意義・意味
- 退職後の生活の資産負債比率を使ったアドバイス・アプローチの議論
- 公的年金、退職金、企業年金iDeCoなどの取り崩し、資産活用面での利用の実態
- 退職後の収入(年金収入、勤労収入、資産収入)を想定したタックスストラテジー
- 資産活用から考える資産形成のマインドセット醸成
- ジェロントロジー議論の活用
- コロナの影響で海外で取り崩しが増えているDCの実情とその対策の議論
- 資産活用期の生活スタイルなど(親の介護のコストも含めた)を考慮した生活必要額の想定
- 世代を超えた資産運用を想定した制度、アイデアの議論
- 資産相続(受ける側として)を念頭に置いた取り崩しの議論
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発起人メンバー(順不同、あくまで個人の立場で研究会に参加いただきますので、肩書は参考まで)
大江加代さん(株式会社オフィス・リベリタス)
唐木田みわさん(三井住友トラスト・資産のミライ研究所研究員)
後藤順一郎さん(アライアンス・バーンスタイン株式会社 AB未来総研所長)
小松原宰明さん(イボットソン・アソシエイツ・ジャパンCIO)
小屋洋一さん(株式会社マネーライフプランニング代表)
島田知保さん(投資信託事情編集長)
竹川美奈子さん(LIFE MAP合同会社代表)
田村正之さん(日本経済新聞社 編集委員)
津曲眞樹さん(OECD-INFE諮問委員)
山口勝業さん(イボットソン・アソシエイツ・ジャパン会長)
山崎俊輔さん(ファイナンシャル・ウィズダム代表)
野尻哲史(合同会社フィンウェル研究所)-デキュムレーション研究会事務局